クマの駆除をめぐり、自治体などに対する悪質な「クレーム電話」が問題になっている。こうした中、秋田県の佐竹敬久知事が「私なら『お前のところにクマを送るから住所を送れ』と言う」と発言し、物議を醸している。佐竹知事はこれまでも“攻めた”発言を繰り返してきた。その真意とは何か。クマ問題を取材するライターの伊藤秀倫さんが聞いた――。(前編/全2回)

全国トップの「クマ被害」が発生した秋田県

〈佐竹知事「お前にクマ送る」 悪質なクレーム電話対策で、県議会で発言〉

やってるなぁ――スマートフォンに流れてきたニュースを見て、思わずニヤリとした。

秋田県の佐竹敬久知事(77)のこの発言が飛び出したのは、2024年12月17日の秋田県議会においてだったが、筆者はこの5日前、佐竹知事にインタビューしたばかりだった。

クマ問題を取材している筆者にとって、“秋田県の佐竹知事”は、もともと気になる存在だった。秋田県は全国的に見てもクマの出没が多く、2023年度に起きた人身事故は62件/70人に達しており、これは2位の岩手県(46件/49人)と比べても突出した数字といえる。こうした現実を踏まえて佐竹知事は、クマ問題については、これまでも理想論にとどまらない“攻めた”発言を繰り返してきた。

乱暴な抗議電話は「『ガチャン』ですよ」

例えば2023年10月23日の知事会見では、狩猟期を迎えるにあたって「バンバンやれというわけではないが、(クマを)みつけたらすぐやる(撃つ)」という積極的な駆除方針を明言している。これは自治体のトップとしては極めて異例なスタンスだ。というのも、昨今では〈クマを駆除〉というニュースが流れるだけで、当該の自治体に「クマを殺すな」という抗議電話が殺到するのがお決まりパターンになっており、炎上を恐れて「駆除」とか「撃つ」という言葉自体を曖昧にボカす人のほうが多いからだ。

さらに同じ会見で記者から、抗議電話への対応を問われた佐竹知事は、「相手が乱暴でなく、しっかり名乗って、どういう用件なのか伝えてもらえれば、話を聞きますよ。ですが最初から乱暴な態度でこられたら、これは『ガチャン』ですよ」と電話を切るポーズをしてみせた。

「ガチャン」と電話を切るポーズをする秋田県の佐竹敬久知事
撮影=プレジデントオンライン編集部
「ガチャン」と電話を切るポーズをする秋田県の佐竹敬久知事

人間の生活圏内に出没したクマ、あるいは人間に危害を及ぼしたクマに対してとるべき対応は「駆除一択」である。よく「麻酔銃で眠らせればいい」という意見を聞くが、麻酔銃一発でクマを眠らせるのは実際には至難の業であり、下手に撃てばかえってクマは暴れ回る。仮にうまく麻酔で眠らせることができて、山奥に運んで放獣したとしても、そうしたクマは再び戻ってくる可能性が高い。その意味でも佐竹知事の毅然としたスタンスにはクマ問題を取材する一人として個人的に共感を覚えていた。

秋田市内のスーパーにクマが立てこもる事件が

そうしたところ、2024年11月30日、秋田市内の土崎港で開店前のスーパーに現れた1頭のツキノワグマが開店準備をしていた男性店員を襲ったあと、そのままスーパーに立てこもる事件が起きた(*被害者は顔などをひっかかれる軽傷)。結局、事件発生から2日後、クマは出入り口付近に設置された箱ワナにかかり、駆除されるに至った。

案の定、秋田市および秋田県庁などにはあわせて約200件(*抗議や応援などを含む)の電話が殺到したという。

そこでこの事件を受けて、佐竹知事に改めて「ガチャン」発言の真意とクマ対策のあり方について話を聞いたのが以下のインタビューである(*このインタビューは2024年12月12日に秋田県庁で行われたものです)