名作と比較すると、「遅さ」「緩さ」が目立つ
「おむすび」を12月20日まで見終えてこれを書いている。新年からはいよいよ折り返し、話も佳境にというタイミングで思うのは、「おむすび」の運のなさだ。
スタート直後にも、「おむすび」の不運を書かせていただいた(『主演の橋本環奈さんは何も悪くない…NHK朝ドラ「おむすび」が絶不調なのは、すべて「虎に翼」のせいである』2024年10月16日)。すべてが「今」だった「虎に翼」の後に見ると、「おむすび」は平成なのに「今」でない。凡庸な朝ドラの後なら、こうは感じなかったのでは、と。だが、不運はそれだけに止まらない。別な不運が襲いかかってきた。再放送、という不運だ。
朝ドラは「優良コンテンツ」だからだろう、熱心に再放送される。「おむすび」の場合、初回放送の1週間前に「カーネーション」(2011年度後期)が始まり、11月に入って「カムカムエヴリバディ」(2021年度後期)が始まった。細かい説明は飛ばすが、朝はBSで「カーネーション」→「おむすび」、昼は地上波で「カムカムエヴリバディ」→「おむすび」と続けて放送される。
どちらも、朝ドラ史に残る名作だ。放送されていれば見たくなり、見れば比較する。結果、「おむすび」の展開の遅さ、緩さが目立ちまくる。ヒロインを演じる橋本環奈さんは福岡のアイドル時代から、強運の持ち主のように見える。それなのに、なぜ? と思うほどだ。
「戦争」を描いた名作に、「今」は勝てない
例えば橋本さん演じる米田結は、「カムカム」が始まったころから最近まで、ずっと専門学校に通っていた。その間に、「カムカム」のヒロイン安子(上白石萌音)は、身分違いの恋を成就させ娘を出産、夫は戦死、密かに姉に思いを寄せる義弟の勧めで理不尽な婚家を逃れ、実家で見知った和菓子作りで娘と2人の生計を立たせ……と、話が進んでいる。
対する結、専門学校で何があったかというと、
班分け
→結に「あんた、なめとん?」と言ってくるメンバー登場
→でも仲良くなりました、
とか。
班分け
→脱サラした40代男性がメンバーに
→結、不倫場面を目撃?
→実はバツイチ、再婚予定の女性とのデートでした、
とか、そんなことが描かれる。ね、緩いでしょ?
身も蓋もなく書くならば、戦争に今の時代は勝てないということだろう。「カーネーション」もこの時期、ヒロイン・糸子(尾野真千子)の戦中が描かれ、見るたび泣けた。
もちろん「おむすび」の製作陣は承知の上で、現代に焦点をあてたはずだ。ドラマの骨格を「平成とギャルと震災」に定めた発想の第一歩は、2025年1月の「阪神淡路大震災30年」というタイミングだろう。主な舞台を神戸とし、ヒロインは平成元年(1989)生まれの「遅れてきたギャル」とした。大人も子供も互いの空気を読みまくる「忖度文化」の始まりが平成だった。そういう問題意識からだと想像する。