「開発力とはやっぱり人。伝統的な仕組みとチームワーク。そのチームも例えば、日本全体で見れば、自動車メーカーと一緒になってやる。日本が得意だと思う分野を伸ばしていく。このことは環境が変わろうが、変わるまいが、常に我々が目指していくべき方向じゃないかと思っている」。根っからの技術屋、鉄屋の馬田らしい。

では、需要増にはどう対応するのか。地域的に狙うのは、やはりアジアだ。現在、JFEHDでは製品を輸出するほか、中間製品を輸出して、現地で加工して最終製品にし、顧客に納めるという垂直分業型が主流。「いまはどちらかというと自動車用鋼板が主体。もっといろいろな品種に広げていかなければいけない。これが課題の一つ。それから将来は、やはり現地生産を考えなくてはいけない」。

ただ、馬田は現地生産の決定について「いつまでに」と期限を切ることはない。

「熟慮断行」。これがいまや馬田を表すキャッチフレーズになっている。「高炉一基つくるといったって、そう簡単にやっちゃいかんわけですよ。ある意味、猪突猛進は簡単だけれども、ハイリスク・ハイリターン。相当に物事を慎重に考えなくてはいけない。ただし、いったん決めたら、わき目も振らずやる」。

たしかに鉄鋼業は装置産業の右代表。いまや一つの製鉄所を建設しようと思ったら、数千億円から1兆円かかる。「下手をすると、会社が火だるまになりかねない」。馬田が熟慮するゆえんだ。

馬田は技術者らしい生真面目さを持ち、押し出しは地味で、大言壮語はしない。

「10年先、20年先まで考えて物事を決め、うまくバトンタッチする。自分の代ではそれが完成しないかもしれないが、それはしょうがない」。

東大の大学院を卒業後、本社に来るまで、製鉄所で育った。製鉄所の課長といえば、「小さい会社の社長みたいなもの。若いときに、工場のなかでそういうトレーニングができて、大変勉強になった」。

工場で培われた鉄屋としての経営センスで、現地生産のタイミングをどう計るのか。熟慮の末の決断のときが待たれる。(文中敬称略)

(門間新弥=撮影)