同社の高速鉄道は、在来線とは共用しない専用線の敷設が絶対条件。「乗客の死亡事故ゼロ」という高い安全性を誇る一方で、新規敷設が必要なため鉄道網の普及する場所には売り込みづらい。いまのところ、輸出の照準はアメリカに絞られており、フロリダ州のタンパ-マイアミ間(530キロ)などで交渉が進んでいる。ライバルはアルストム(仏)、シーメンス(独)、ボンバルディア(カナダ)という巨大な鉄道システムの総合メーカー。しかも、鉄道建設は政治が絡むだけに、どうなるかは未知数だ。

発言を拾い読みすると、山田は“石部金吉金兜”(融通がきかないの意)的な鉄道屋というイメージになってしまいそうだが、本人はいたって明るく、取材では軽口も飛び出す。

80年代後半、民営化の論議で国中が揺れていたときのことだ。ある日、国鉄の副総裁に呼び出され、「このまま民営化の立場にいると、地獄をみるぞ」と恫喝を受けた。幹部に睨まれれば、もう出世はない。しかしまったく動じなかった。

「30代で人生一区切り終わったなという気持ちで臨んでいました。いざとなれば、新神戸にあった女房の実家を建て直して、旅館か何かをつくって、そこのオヤジをやろうかって思っていた」

現在のJR東海の幹部は、民営化の修羅場をくぐり抜けている。その後、彼らの努力によって、JR東海は営業利益率20%前後を誇る優良会社となった。当面は、何もしなくても困らない。とりわけ鉄道会社の第一義は安全輸送であり、無理をするべきではない。しかし、挑戦の機会を奪われれば、社内の活力は落ちていく。山田も「相当、社内が官僚的になっている」という。そのなかで、リニア建設や海外進出には、リスクとリターンという民間ならではの面白さがある。

「自分で発案して、自分でぶつかっていく。そういう仕事に就けば、否応なしに自分を広げざるをえなくなる」

人生を賭して民営化を成し遂げた山田らの志を後輩たちにバトンタッチできるかどうか。正念場はこれからだ。

(文中敬称略)

(門間新弥=撮影)
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