NHK朝ドラ「ばけばけ」のモデルである小泉八雲とセツは史実ではどんな関係だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「2人が結ばれたのは怪談好きゆえ、とは言い切れない」という――。
島根県隠岐郡海士町にある八雲広場(佐渡公園)。小泉八雲と妻セツの銅像(写真=Asturio Cantabrio/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
朝ドラで描かれた「通りすがり」の真意
お金のために、松江中学の英語教師レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の女中になったはずの松野トキ(髙石あかり)だが、第10週「トオリ、スガリ。」(12月1日~5日放送)から、ヘブンに対して少しずつ心が動きはじめたように感じられる。
気管支カタルで寝込んでしまったヘブンが、「私が死んでも悲しまないで。私はただの通りすがりの異人です」と英語でいい、教え子の小谷春夫(下川恭平)が訳して伝えると、トキの表情は「通りすがり」という言葉に反応して、あきらかに曇った。ヘブンが日本を去ってしまうと食い扶持がなくなる――。理由はそれだけだろうか。
第11週「ガンバレ、オジョウサマ。」(12月8日~12日放送)でも同様だった。年始のあいさつに来た錦織友一(吉沢亮)を羽織袴姿で迎えたヘブンは、日本滞在記のラストピース、つまり、あと一つのテーマを見つけたい、と訴えた。「アトヒトツ」と繰り返し聞かされているトキは、「ヒトツ」が見つかったらヘブンは日本を去ってしまうのではないか、と不安になる。
トキは少しずつ、ヘブンに惹かれているように見える。ヘブンもまた、トキが男性と出かけると落ち着かないなど、まだ無意識のうちかもしれないが、トキが気になりはじめているように見える。
だが、ヘブンには自分があえて「通りすがり」であろうとしている理由があり、第11週で、それを自分の言葉で語った。その内容は、ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)が来日前にたどった軌跡とほぼ重なる。
