高市首相にとっては予想外の痛恨事

米国によるイラン攻撃は長期化の様相を見せている。対抗措置としてイランはホルムズ海峡の封鎖を宣言、石油タンカーなど船舶はホルムズ海峡を事実上通過できなくなっている。日本は原油輸入の9割を中東に依存、74%がホルムズ海峡経由だとされ、封鎖が長期化すれば、原油調達に支障を来し経済に大きな影響を与えることは間違いない。

記者団の取材を終え、引き揚げる高市早苗首相。米国とイスラエルのイラン攻撃に伴う原油価格の高騰に対応し、石油備蓄のうち1カ月半の消費量に相当する分を放出すると表明した=2026年3月11日、首相公邸
写真=共同通信社
記者団の取材を終え、引き揚げる高市早苗首相。米国とイスラエルのイラン攻撃に伴う原油価格の高騰に対応し、石油備蓄のうち1カ月半の消費量に相当する分を放出すると表明した=2026年3月11日、首相公邸

高市早苗首相は、物価上昇を抑え込み、実質賃金をプラスにすることを半ば公約として掲げてきた。3月9日に厚生労働省が発表した1月の毎月勤労統計では、名目賃金から物価変動分を差し引いた「実質賃金」が前年同月比1.4%のプラスと、2024年12月以来、13カ月ぶりにプラスに転じた。

当初は大半のエコノミストが2月、3月もプラスが続くと見ていたが、ここへきて急速にガソリンの小売価格が上昇したこともあり、先行きに暗雲が漂っている。高市首相からすれば、実質賃金のプラスが定着したと胸を張りたいところだったろうが、まさに予想外の痛恨事になっている。

ガソリン価格の急激な引き上げ

首相としては、何としても物価上昇を抑えたいと思ったのだろう。石油備蓄の放出を決めたほか、激変緩和措置という名目で、石油元売り会社に補助金を出して販売価格を引き下げさせることを決めた。

石油備蓄は国が所有する国家備蓄と民間に義務付けている民間備蓄があり、昨年12月末で国家備蓄が146日分、民間備蓄が101日分ある。このうち石油元売り会社に義務付けている70日分を55日分に引き下げることで供給量の維持を目指す。さらに政府は、国家備蓄を1カ月分放出して元売りなどに販売することも決めた。備蓄の放出は合計45日分、約8000万バレルを取り崩す計画だ。

石油備蓄が200日分あるから大丈夫だ、と政府は繰り返すが、ホルムズ海峡の封鎖がどれだけ続くかは分からない。米国はイランに降伏と体制転換を要求しているので、現イスラム政権がそう簡単に折れるとも思えない。そうした中で、早くも備蓄放出に手を付けて大丈夫なのだろうか。

市中のガソリンスタンドではガソリンの急激な価格引き上げが起きている。1リットル190円台を付けるところも多く、元々価格が高めの長野県などでは200円を超えるガソリンスタンドも出始めた。そんな価格上昇を高市首相は補助金と合わせて抑え込み、1リットル当たり170円程度に抑えるとしている。財源として既存の基金の残高2800億円を当てるとしているが、原油価格の動向によっては基金は1カ月で底をつくとの見方もある。

これまでもガソリン価格を抑えるために3年半で8兆円という巨額の財政を投じてきたが、今後も価格が上昇する「市場」に戦いを挑み続けることになれば、国の財政は悪化の一途をたどる。