テスラは高級セダン「モデルS」と高級SUV「モデルX」の生産を段階的に終了すると発表した。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「この決定は、単なるライン整理ではない。プレミアムセグメントの象徴的モデルを終了させることで、生産リソースと経営資源をAI・ロボティクスに再配分するというイーロン・マスクCEOの意思表示だ」という――。
テスラの看板
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第1章:「イーロン・マスク帝国2.0」はどこへ向かうののか

テスラ再定義の背後で起きている構造変化

2026年1月29日(日本時間)に実施されたテスラの第4四半期決算説明会において、イーロン・マスクは企業の将来像について明確な方向転換を示した。単なる業績説明ではなく、企業の重心がどこにあるのかを明示する発言が相次いだのである。

まず彼は、「AIとロボティクスが今後最大の成長エンジンになる」と明言した。これは抽象的な未来論ではない。売上の大半を依然としてEVが占めているにもかかわらず、将来価値の源泉を明確にAIへ置いた発言である。

同日の説明会では、長年フラッグシップモデルとして販売されてきたモデルSおよびモデルXの生産終了が発表された。モデルS/Xの生産終了は、AI・ロボティクスへの資源集中という前向きな戦略判断である一方で、BYDをはじめとする中国勢のコスト競争力拡大や、EV市場の価格下方シフトといった構造的圧力への現実的対応でもある。高級セダン市場の縮小とマージン圧迫を踏まえ、生産効率を主力モデルへ集約する判断は、防御と攻撃を同時に行う再配置と見るべきだ。すなわち外部環境の変化が、テスラのAI集中戦略を加速させた側面も否定できない。

主力モデル生産終了の「本当の意味」

もっとも、この決定は単なるライン整理ではない。プレミアムセグメントの象徴的モデルを終了させることで、生産リソースと経営資源をAIおよびロボティクスへと再配分するという意思表示であるということが重要だ。

さらにマスクは、自社設計AIチップ(HW5.0/AI5世代)を中核に据える方針を強調した。自動運転と将来のロボティクス展開の基盤は、外部調達ではなく自社設計の演算基盤にあると明確に述べている。これは単なる技術的優位の主張ではなく、ハードウェアからアルゴリズムまでを一体で設計する垂直統合戦略の宣言である。

2026年2月12日の投資家向け質疑応答では、FSD(Full Self-Driving、テスラが開発中の高度自動運転ソフトウェア)の高度化と地域別AIトレーニングセンター整備についても言及があった。特に中国市場向けローカルデータ活用体制の強化は、販売戦略というよりも、AI学習精度を高めるためのインフラ整備として位置付けられている。