物理AI=「現実空間の覇権争い」
ここで視野をマイクロとマクロに分けてみる。
マイクロの視点では、AIチップ設計、センサー統合、演算最適化といった技術競争がある。マクロの視点では、都市交通、労働市場、保険制度、エネルギー配分といった社会システムの再設計がある。
筆者が一貫して重視してきたのは、この両者を同時に見る視点である。チップの設計思想が、最終的に社会の振る舞いを規定する。センサーの精度が、都市の安全水準を変える。物理AIのOSを握ることは、単なる技術優位ではなく、標準の支配を意味する。
生成AIが「言語空間の覇権争い」であるならば、テスラが進める物理AIは「現実空間の覇権争い」である。どの企業のアルゴリズムが道路を走り、どの企業の制御ロジックがロボットの動作を決めるのか。それは単なる製品競争ではなく、現実世界のOSを誰が握るかという争いである。
この視点に立つと、テスラのAIチップ、Dojo、FSD、オプティマスは個別の技術要素ではなく、一つの基盤構築プロジェクトとして見えてくる。車はAIのための媒体ではない。物理世界のOSを展開する端末である。
そしてここで初めて、テスラの再定義が持つ射程が見えてくる。EV企業からAI企業への転換とは、製品カテゴリーの変更ではない。物理世界の制御基盤を握る企業へと変わろうとする試みなのである。
第3章:マスク・エコシステムは「垂直統合型国家」に近づいている
通信×知能×身体の三層構造
テスラ、xAI、X(旧ツイッター)、スペースXの動きを単なる企業間協力と捉えるのは不十分である。表面的には別法人であり、事業領域も異なる。しかし構造的に見ると、それぞれが明確な役割を持ちながら、AIを中核に垂直統合的に配置されつつあるように見える。
まず、スペースXが担うのは通信インフラである。Starlink(スターリンク)は地球規模での衛星通信網を構築し、低軌道衛星によって高速通信を提供する。この通信基盤は、地理的制約を超えてデータを伝送する能力を持つ。AI時代において通信帯域は単なるインフラではなく、知能の神経網に相当する。
次に、xAIが担うのは知能そのものである。モデルの訓練、推論、進化。画像生成やコード生成を含む高度なAIモデルは、データを解釈し、意味を与える中枢機能を持つ。Xは、その知能を社会へと展開する場である。情報、民意、感情、反応。リアルタイムで流れる社会データは、AIモデルにとって巨大な学習資源であり、同時に影響力の媒体でもある。
そしてテスラが担うのは「身体」である。車両やオプティマスは、物理世界においてAIが実際に行動するための装置である。移動し、判断し、作業する。この身体がなければ、知能はデジタル空間に閉じ込められたままである。
知能(xAI・X)
身体(テスラ・オプティマス)
この三層が接続されたとき、構造は一企業の枠を超える。

