日本はホルムズ海峡封鎖に対しどうすべきか。拓殖大学海外事情研究所准教授の野村明史さんは「新たな最高指導者モジタバ師はアメリカに対し徹底抗戦の構えだ。トランプ大統領との会談もあり、高市首相は厳しい決断を迫られている」という――。
令和7年10月28日、ドナルド・トランプ大統領と共に、米海軍横須賀基地を訪問した高市総理
令和7年10月28日、ドナルド・トランプ大統領と共に、米海軍横須賀基地を訪問した高市総理(写真=内閣官房/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

謎に包まれたイラン新最高指導者

3月8日、イランの第3代最高指導者にモジタバ・ハーメネイ師が就任した。前最高指導者のアリ・ハーメネイ師が2月28日にアメリカとイスラエルの攻撃で殺害されたことによる人事だ。

ハーメネイ師の次男であるモジタバ師はこれまでほとんど表舞台に立つことがなく、公職に就いた経歴もない。そのため長く「謎の人物」とみなされてきたが、過去には後継者候補としてたびたび名前が取り沙汰されてきた。

モジタバ師は1969年に6人兄弟の次男として誕生した。青年期にかけて、イランは1980年から8年続いたイラン・イラク戦争のまっただ中にあった。高校卒業後、モジタバ師は革命防衛隊に入隊し、軍務を経験した。

戦後、父ハーメネイ師が最高指導者に就任すると、モジタバ師は初代最高指導者ホメイニー師も学んだ宗教都市コムでイスラーム法学を修めた。

現地では高名なシーア派法学者たちに師事し、自らも神学校で教鞭を執るようになり、宗教指導者との関係を築いていった。宗教学者としての出発は比較的遅かったものの、2004年頃からはコムの神学校で継続的に教えていたとされる。

では、公的な役職に就いた経験は皆無に等しく、長く実像の見えにくい存在だった人物が、なぜ最高指導者にまで上り詰めることができたのだろうか。

「政治素人」でも国家運営できるワケ

イランでは、最終的な意思決定権の多くが最高指導者に集中している。国民の選挙で選ばれ、行政を担う大統領は存在するものの、国家全体に関わる最終的な権限は最高指導者に属する。最高指導者の下で大統領が行政の実行役を行うという形だ。

しかし、行政から軍事に至るまで、あらゆる指揮・統治を最高指導者個人だけで担えるのかといえば、疑問が残る。

先代の父ハーメネイ師は、最高指導者就任前、約8年にわたり大統領を務め、政治手腕にも長けていた。とはいえ、日常的な事務処理や戦略立案のすべてを自ら行っているわけではなく、そうした実務の多くは最高指導者事務所が担っている。

ハーメネイ最高指導者事務所にはスタッフが約4000名いたと言われる。イランでは、一般のシーア派信徒が高位のシーア派法学者に師事し、教えを仰ぎながら宗教的知識を身につけるのが伝統だ。

こうした高位のシーア派法学者は「マルジャア・タクリード(模範の源泉)」と呼ばれる。多くの弟子を抱える法学者は自らの事務所を設け、その運営を息子や親族に任せることも少なくない。シーア派法学者が国家を治めるイランでは、最高指導者ともなれば、その事務所は、自然に多くの人員が集まるため、組織は巨大化していく。

ハーメネイ師の事務所では、権力に強い関心を示し、とりわけ安全保障分野に意欲的に関与していた人物として、モジタバ師の存在がたびたびアラブ系メディアで報じられてきた。ハーメネイ師は約37年にわたる長期政権を築いたが、もともと最高指導者に望まれて就任したわけではなかった。