近年のデータを見ると、50歳ぐらいまでであれば、多くの歯を欠損している人はあまり多くありません。その後60歳までの10年間で1〜2本抜けて、70歳までの10年間で3〜4本抜けていく傾向がある。つまり60歳を境に、それまでの不摂生のツケがやって来て、歯が抜け始めるわけです。
抜けることで一番影響が出るのは前歯です。前歯がなくなると心理的にも落ち込んで、人に会いたくなくなって社会性も下がります。前歯以外なら、たとえば奥歯1本を失っても、心理的にはそこまで影響は出ませんが、やはり放っておくと噛み合わせのバランスが崩れ、さまざまな支障が出てきます。
口腔内は連動しているので、奥歯が失われると、噛み合わせや口の開閉などの動作をサポートしている顎関節に過剰な圧力がかかり、顎関節症の症状が現れることがあります。そうなると、顎が痛くて口が開けられなくなったり、顔が歪んだりします。噛めないだけではなく、栄養が上手く摂れなくなってフレイル(虚弱)という状態にもなりやすく、寝たきりになる可能性もある。脚力やバランス機能の低下を引き起こして、転倒のリスクが高まるという報告もあります。歯が抜けたままの状態は新たな問題を誘発しやすいのです。
なので、歯はできるだけ残したいのですが、「歯を残すのがいい歯科医ですか?」と聞かれると、一概にそうだとは言えません。ただ残せばいいわけではなく、抜いたほうがいいケースもあるからです。そう判断されるのが、「歯が真っ二つに割れている」「歯の周りの骨が完全に溶けてなくなっている」「歯茎の奥深くまで虫歯が進んでいる」の3つのケースです。これらは抜かずに放っておくと、周囲の歯の歯茎や骨にまで悪影響をもたらすリスクが高くなり、その歯だけでなく両隣あわせて3本の抜歯が必要になることすらあります。つまり、ほかの歯や骨を守るために抜くのです。
歯を抜くことに抵抗がある患者さんもいるので、どうしても抜きたくないと言うのなら抜くことはできません。しかし、前述のような情報を客観的な診断として丁寧にお伝えして、判断してもらいます。
欠損歯の治療の選択肢には、インプラント、ブリッジ、入れ歯があります。どの治療法にするかは、欠損した本数、残っている歯の配置と強さによって検討します。
抜けた歯が1〜2本の場合はインプラントかブリッジ、欠損の本数が多かったり奥歯がなかったりする場合はインプラントか入れ歯を選ぶことが多いです。保険診療を希望される場合は、ブリッジか入れ歯になります。
【インプラント】安価で提供する歯医者が省く大事なステップ
インプラントは、歯を失った部分の顎の骨に、チタン製の人工歯根(インプラント)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。ブリッジや入れ歯と異なり、周囲の健康な歯を削る必要がなく、天然歯に近い力で噛めて、見た目も自然で美しいのが特徴です。
インプラント治療の近年の主流は「補綴主導型治療」。まずは「ここにこういう歯をつくりましょう」という、理想的な歯の位置や形から逆算して治療計画を立てる考え方です。
かつてはインプラントを埋め込むのが可能な骨や歯茎があるところに「インプラントを入れて固定しよう」という土台発の治療「外科主導型治療」が主流でした。これはインプラントと歯の位置が合わないことが多く、噛み合わせがズレたり、磨きにくくて周囲炎になりやすかったりといったトラブルが起きやすく、長持ちしませんでした。
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