【むし歯】「通院が少ない」「削らない」はいい治療なのか
いい「むし歯治療」とは何でしょうか。私は歯科医として、「可能な限りやり直しのない治療」を理想としています。処置が不十分だとむし歯が再発し、治療をやり直すたびに歯を削らなければならず、健康な歯質がどんどん失われていくからです。「可能な限り」というエクスキューズをつけるのは、残念ながら人は年を取るにつれエイジングによる変化が避けられませんし、修復に用いる材料も劣化していくためです。
治療が終わってからも1年後、3年後、あるいは10年後まで、患者さんの口腔内の写真やX線を撮り、データを残して変化がないことを確認しながら、歯科衛生士と一緒に丁寧にメンテナンスを続ける作業が必要になります。そうやって治療の効果は長持ちし、患者さんにとっては「ロンジェビティ」(健康で長い予後)を達成できる可能性が高まるわけです。
一方、患者さんがむし歯治療に求めるものは、「通院が短期間で済むこと」かもしれません。しかし、歯科医からすると早く終わればいいわけではないのです。もちろん仮詰めや仮歯の期間が長引くことによる感染リスクを考慮すると、治療期間は短いほうがいいといえます。また、初期のむし歯を小さく削って、プラスチック素材のコンポジットレジンを小さく詰めるのであれば、短時間で終わります。
しかし、悪化したむし歯の場合、削って型を取って歯科技工士につくってもらうとなれば、時間もかかります。神経を残すかどうか検討するために薬剤を入れて患部の反応を待つなど、期間や通院回数を要する場合もあります。これらのようにむし歯の症状はケース・バイ・ケースすぎて、同列には扱えません。「1回で終わったからいい治療」とは一概には語れないのです。「歯を削らないのがいい歯医者」というのもたまにメディアで見かける説です。これは本当なのでしょうか。
歯は削ってしまえば元には戻りません。ですから、削らないで経過観察ができる状況であれば、削らないほうがいいのは確かです。ただそれはなりかけのむし歯のような話であって、そういう状況にある歯のほうが少ないといえます。
ミネラルが抜けることで強度が落ちて穴が開き始めていたら、削って埋めないといけません。乳歯や若い永久歯には、表層のエナメル質レベルで見るとそこまで悪くないけれど、その奥の象牙質のほうで大きく広がっている「隠れむし歯」もあります。それもX線で評価して、削って詰めるなどの治療に取り組まなければなりません。
つまり、「どんな場合にも削らない」ことが正解ではなく、削るべき場合は覚悟をもって削る必要があります。その痕を確実に埋めたり被せたりして、再発を防ぐほうが大切なのです。
むし歯の治療を受けていると、歯科医から「様子を見ましょう」と言われる場合があるのではないでしょうか。患者さんの中には「放っておいてむし歯が治るのか?」「何度も来させて儲けようとしているのでは?」と疑問に感じる人がいるかもしれません。
このようなことを言う場合、COの評価(上図参照)であることが多いです。歯の表面が白くなってミネラルが抜け強度が落ちていても、まだ穴が開いていない段階で発見できれば、セルフケアでその状態を維持することが可能です。表面にあるむし歯菌に栄養がいかないようにプラークを適切に取り除き、フッ化物溶液の塗布などで歯に栄養を与えて再石灰化を促進。そして、エナメル質の表層の変化を写真に撮って定期的な観察とメンテナンスを行い、強度が落ちなければ穴が開くのを防げるのです。なので、「様子を見ましょう」と言われても、その必要性と治療計画を説明してくれるのであれば、大きな問題はないと思います。
なお、保険診療では説明する行為が初診料・再診料に包括されているので、説明をしなくても丁寧にたくさんしても点数は同じです。この構造上、多くの患者さんを診ようとして、説明が雑になってしまう可能性もあります。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント



