インフルエンザ、コロナ、かぜ……体調を崩したとき、必要な分だけきちんと休むことができているだろうか。医師の木村知さんは「会社や学校を『休むこと』に負い目を感じる人がいまだに多い。『体調不良=自己管理の問題』とするような医学的に誤った認識にくわえて、“制度”にも日本特有の問題がある」という――。

コロナ禍唯一の収穫は「休めるようになったこと」

ついこの前までの、あのうだるような暑い日々がおわったと思ったら、秋をとおり越してすっかり冬。急な寒さとともに、今年も「カゼ」のシーズン到来です。

体調が悪い男が熱を測ってもらう
写真=iStock.com/yamasan
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インフルエンザもワクチン接種の話題が出始めるよりもまえから流行しはじめたことはご存じのとおり。医療機関でも連日「発熱外来」受診の問い合わせ電話が鳴りやまない状況です。

読者のみなさんの周りにも、インフルエンザやコロナにかぎらず体調をくずして職場や学校を休んでいる人が増えてきているのではないでしょうか。

そういえば「かぜで仕事を休む」といえば、コロナ禍前までは、「カゼでも絶対に休めないひとへ」などという、今であれば“あまりにも非常識”なキャッチコピーが目をひいた「総合感冒薬」のコマーシャルがありました。

当時はまだ、「彼はカゼをひいて辛そうなのに休まず仕事に出てきて、たいしたもんだ」とか「カゼなんかで休んでいられない。同僚に迷惑をかけてしまうじゃないか」といった言葉が、とくに違和感なく飛び交う世の中だったように記憶しています。

それがコロナ禍以降は、「体調不良のときは無理して出勤せずに休むべき」「休まず出勤して同僚に感染させてしまっては、むしろ迷惑をかけてしまう」といった意識が私たちのなかに、新たな“常識”として定着してきたようにも思えます。思い出すだけでも気が滅入るあのコロナ禍ではありましたが、これは唯一の収穫といえるかもしれません。

「カゼは自己管理ができていないから」のウソ

一方、今年の流行語大賞は高市首相の「働いて×5」が受賞したようですが、流行語どころか、これはワークライフバランスや過労死問題が未解決の今では「もっとも流行おくれの言葉」。こと感染症の流行シーズンには、もっとも流行させてはならない言葉といえるでしょう。

ただ、こうして少しずつ体調不良時に仕事を休めるようになってきた現在でも、治って出勤するときには、同僚たちに頭を下げ下げ、場合によっては「お詫びの菓子折り」まで持っていくという人も、まだいるかもしれません。

しかし、そもそも体調不良で休んだときに、こうした“お詫び行脚”をしないといけないのでしょうか?

たしかに不在の間の仕事を引き受けてくれた同僚に感謝の意を表明するのは当然でしょう。ただ悪いことをしたわけでもないのに謝るのは、本来であればおかしいことです。もしかすると「カゼを引くのは自己管理ができていない」という誤ったコンセンサスがいまだにはびこっているのが、その理由かもしれません。

ご存じのとおり、カゼの原因のほとんどはウイルスです。いくらカゼを引かないように気をつけていたとしても、完璧に予防するのは不可能です。

たしかに不摂生して毎晩夜更かし、睡眠不足の状態であれば、感染リスクは高まるかもしれませんが、カゼを引いてしまった人の大多数が、そうした自己管理の不徹底という自己責任であるとするのは、科学的にも不自然きわまりないことと言えるでしょう。