「体調崩して申し訳ない」が組織を壊す

かりに不摂生して睡眠不足となった人であっても、その原因をさかのぼっていけば仕事上の問題、心身ともにストレスフルな就労環境が浮き彫りになってくるかもしれないのです。

つまり「カゼを引くなんて自己管理がなっていない」との言葉を上司は部下に安易かつ断定的に言ってはならないということです。このような「圧力」によって、カゼを引いた人が休みにくくなる組織風土を作ってしまうと、むしろ組織にとっては大きなリスクを呼び込むことにもなります。

それはインフルエンザやコロナはもちろん、他のウイルスや細菌感染症も他人に感染させるリスクがあるからです。休みにくい組織風土はこうした感染症の蔓延リスクを抱えることとなって、いわゆるBCPが一気に崩壊してしまうのです。

朝のラッシュアワーにマスクをつけたたくさんの人が歩く
写真=iStock.com/Domepitipat
※写真はイメージです

体調不良をおして出勤し業務効率低下をきたす「プレゼンティーイズム」が昨今問題とされはじめてきましたが、組織内での感染爆発は、これらによる比較的スローなBCP崩壊よりも、組織全体が一気にマヒすることでより急速かつカタストロフィックな事態を引き起こしてしまいます。

体調不良に“有給休暇”を使うことの大問題

仕事を休みにくい原因は組織の風土だけではありません。

休む場合の「手続き」も大きく関与します。みなさんは、体調不良で職場を休んだ場合、その期間の給与はどうなるでしょうか。

「ノーワーク・ノーペイ」の原則からすれば、当然ながら休んだ日数分の給与はゼロとなるはずです。しかしそれはかなわない。多くの人はこのような場合、有給休暇を充てるようにしているのではないでしょうか。

インフルエンザやコロナは感染症には変わりありませんが、これらは感染症法で5類になるため法に基づく行政からの就業制限はありません。となると、受診した医療機関の医師から「感染リスクがなくなるまで出勤しないで」とかりに言われても、自己判断で出勤してしまう人もいるかもしれません。

そうした人が職場に来てしまわないよう、「インフルエンザやコロナに罹った場合は感染リスクが消失するまで出勤しないこと」と従業員に指示している組織もあるでしょう。

このように会社が組織防衛の目的で感染者の出勤を禁止する場合は、本来であれば「会社都合」ですから休業手当を支払わなければならないのがスジですが、じっさい多くの会社ではそのような対応はされていないと思います。従業員側としても全額補償されない(平均賃金の60%以上)のであれば、有給休暇で充てたほうが手続きも煩雑とならなくていいと思う人がほとんどでしょう。

しかし、有給休暇というのはご存じのとおり、本来は病欠に使うべきものではありません。

有給休暇は本来、健康な状態でのリフレッシュ、すなわち「積極的な休息」のためにあるものです。病気のために仕方なく休むという「消極的な休息」に使ってしまうと、リフレッシュや日常の疲労回復のための休息の機会を減らしてしまい、また体調をくずして有給休暇を減らす……という悪循環を招いてしまうことにもなりかねません。