独自の戸籍制度と超学歴社会が特徴の中国では、高学歴な若者ほど未来が明るいはずだった。しかし「世界の働き方研究所」の調査によると、戸籍制度に起因する教育格差や年一度の最重要試験を乗り越えて大学や大学院を卒業しても、思うような職に就けない問題が深刻化していることがわかった――。

※本稿は、世界の働き方研究所『労働時間を貯めて、休日に変える⁉ すごい 世界の働き方』(新星出版社)の一部を再編集したものです。

バイクに乗るフードデリバリーの配達員
写真=iStock.com/Wengen Ling
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中国で目立つ「都市と農村の格差」

中国は、沿岸の都市部に資本を集中させて経済発展が進む一方で、内陸の農村部は発展から取り残されてしまいました。

こうして都市と農村に大きな格差が生まれ、都市部住民の平均可処分所得は、農村部住民の約2.4倍に達しています。高収入で安定した職業は都市部に集まり、農村部には限定的な仕事しかありません。また、医療や年金といった社会保障制度も都市部では充実していますが、農村部では不足している状態だといわれています。

こうした都市と農村の格差、そして両者の働き方の違いに関わっているのが、中国独自の戸籍管理制度である「戸口制度」です。

働き方に影響する中国の「戸口制度」
出典:世界の働き方研究所『労働時間を貯めて、休日に変える⁉ すごい 世界の働き方』(新星出版社)

日本の戸籍は主に家族などの身分関係を登録するものですが、中国の戸口は個人の居住地(基本的には出生地)を登録するものであり、教育や医療、年金、住宅購入、さらには就職といった各種行政サービスの受給資格と密接に紐づいています。

戸口は都市の「非農村戸口」と地方の「農村戸口」に明確に分けられており、原則として、戸口の所在地でなければ、市民としての行政サービスを十分に受けることが難しいのです。都市部へ過度に人口が集中するのを防ぐため、農村戸口から非農村戸口への変更には、以前は厳しい制限が設けられてきました。

ここでいう都市とは、主に「直轄地」である北京市や上海市、天津市、重慶市、また、「一級都市」といわれる甲州市や深セン市、「新一級都市」の杭州市、南京市といった主要都市を指します。

戸口制度が引き起こす社会問題「農民工」

戸口制度は、中国の労働市場において「農民工」と呼ばれる社会問題を生み出す背景となっています。

農民工とは、仕事が少なく満足な収入を得られない農村を離れ、戸口の変更をせず、「農村戸口」のまま都市部で働く出稼ぎ労働者のこと。出稼ぎ行為自体は法的に禁じられておらず、中国の総人口の約2割にあたる3億人近くの農民工がいると考えられています。

戸口制度が引き起こす社会問題
出典:世界の働き方研究所『労働時間を貯めて、休日に変える⁉ すごい 世界の働き方』(新星出版社)

農民工の多くは、製造業や建設業、運輸業など、人間の労働力に頼った業種に従事する傾向があり、一部では週平均労働時間が48時間を超えるなど、長時間労働の常態化が課題になっています。

また、賃金水準においても、非農村戸口を持つ労働者と比べると、一説には6〜7割程度と低い水準に留まるなど、戸口の有無による格差があります。さらに、きちんとした雇用契約を結ばないケースも多く、非正規雇用として不安定な働き方になりがちです。都市の医療保険や失業保険といった社会保障制度は「非農村戸口」を持つ人を対象としているため、農民工はこれらのセーフティネットからも疎外されやすいことも問題になっています。