日本はG20唯一の「休み方後進国」だった
こうした事態に陥らないためには、病気の場合には有給休暇を充てないで済むようにする必要があるといえます。
具体的には、企業側が有給の病気休暇(シックリーブ)制度を導入することが、もっとも有効で理にかなっているといえます。
これによって体調不良の従業員を働かせずに積極的に休ませることで、組織の崩壊を回避することができるからです。「目先のコスト削減・損失」にとらわれるのではなく、シックリーブ制度導入を“組織防衛のための戦略”と位置づける意識改革が企業側に求められるといえましょう。
ただこの制度導入ですが、個々の企業の方針に完全に委ねてよい問題と私は思いません。企業によって「体力」が異なるからです。やはり国がシックリーブ制度を率先して提唱し、個々の企業を政策面でも財政面でもバックアップすることが重要ではないでしょうか。
というのも、国の政策としてシックリーブ制度を掲げていないのはG20のうちでは、日本の他にアメリカとカナダくらいなのです。
G20の他の主要国(ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、オーストラリア、韓国など)の多くは、雇用主による短期の病欠時の賃金補償(Sick Pay)や、社会保障制度を通じた医療休暇(Paid Medical Leave)など、なんらかの形で病気療養中の収入を国として保障しています。
もっともアメリカやカナダにしても連邦としての制度はなくとも、州や市単位では同様の保障がされているところもあることを踏まえれば、国民の病気療養中の賃金保障を、公的制度として一切義務づけていない日本だけが、この問題から唯一取り残されていると言えるでしょう。
“強い国”に必要なのは「働いて×5」ではない
言い方を変えれば、日本は「労働者の健康よりも、目先の企業のコスト削減を優先する」という、前時代的な価値観を国全体が是認している先進国のなかでも遅れた国であって、これは「休む、休ませることこそがBCP」という現代の常識的危機管理論と、かなりかけ離れているということになります。
そういえば、インフルエンザやコロナの診断で休む際に、会社から診断書の提出を求められることはありませんか。診断書を提出することで、なんらかの保障を得られるのかもしれませんが、その診断書発行にかかる費用は会社もちでしょうか、それとも自腹でしょうか。
こまかいことかもしれませんが、このような点にもその企業・組織の従業員にたいする姿勢が見てとれます。
体調不良の従業員が負い目を感じることなく、収入を気にすることなく「快適に休める」、そして雇用主や上司は形式的な書類提出にこだわったり煩雑な手続きを要求したりせず、またもちろん嫌味など言うことなく「快く休ませる」、こうした就労環境の整備こそが、感染症の流行に強い組織を作り上げることになるのです。
そのような「強い組織」が社会全体にひろがっていけば、国全体として社会として感染症の危機に強くなります。
「強い国をつくる!」と言うのであれば、まずは感染症が猛威をふるっている今こそ、「働いて×5」のスローガンを流行らせるのではなく、「休む、休ませる×5」を流行語にすべきではないでしょうか。


