なぜ細田守監督『果てしなきスカーレット』(11月21日公開)は観客から避けられているのか。ライターの村瀬まりもさんは「作品の評価は公開当初の酷評から上がってきているが、女性描写に違和感を抱かざるをえないシーンもある」という――。
拍手に応える細田監督ら 「ゆるし」含んだ復讐劇を
写真=共同通信社
公式上映後、観客からの拍手に応える(前列左から)細田守監督、芦田愛菜さん、岡田将生さん=2025年12月4日、イタリア・ベネチア

公開2週目、着席率は2%未満

『果てしなきスカーレット』を2回観た。2度目の鑑賞は12月3日朝9時台の回。同作は公開2週目で既に週末興行成績はトップ10から脱落していた。全432席のIMAXシアターには6人しか座っていなかった。上映終了後、広い空間にポツポツと離れて座っていた私たちはなんとなく目を合わせた。まるで劇中に出てくる“死者の国”の砂漠で「他にも人間がいる」とお互いの存在を確かめるような気持ちだった。

ネットでは酷評が目立つ『果てスカ』こと『果てしなきスカーレット』だが、細田作品について何度か取材したこともある筆者は、そこまで不出来な作品とは思わない。前回の記事でも書いたとおり、設定にツッコミどころはたくさんあるが、『ハムレット』を原案とする復讐劇という筋は一本通っている。フラダンスや近未来の渋谷が登場する“超展開”があることを織り込み済みなら(知らなければもちろんビックリする)、芦田愛菜が声を当てている主人公スカーレットの心情に集中して、最後まで観られる。

【参考記事】432席が2席しか埋まらない…細田守監督の新作「果てしなきスカーレット」が大コケしている悲しい理由

特に肝心のアニメーションが新しいルックで手を抜かずに作り込まれていることは、3DCGの絵柄の好き嫌いはあるにせよ、誰しもが認めるところではないだろうか。今回、IMAXの大きいスクリーンと迫力ある音響で観てよかったと思えた。

日テレも認めた「想定外の大苦戦」

しかし、興行収入的にはとても厳しい状況だ。20億円前後だと推測されている製作費すらも回収できるのかどうか。12月1日には製作の筆頭である日本テレビの定例記者会見でも言及された。

「『果てしなきスカーレット』は残念ながら、思いのほか大苦戦。(中略)我々が想定している興行収入からはかけ離れた数字のスタートとなった。これまでの作品とはかけ離れたテイストとなっているが、当初から監督と世界に挑戦していくには今までの作風にこだわらないものを作ろうということでやってきた。従来の細田アニメファンには受け入れがたかったのかなと思っている。SNSで辛口の批判が起こっているが、一方で、非常にいい内容だと評価していただく声もある」と澤桂一専務。福田博之社長も「映画を観たが、圧倒的な映像美、スケールの大きい世界観、芦田愛菜さんのセリフもすごいものがあった。これを観ていただかないのは残念」とコメントした。

東宝MOVIEチャンネル【果てしなきスカーレット】 エンディングテーマ「果てしなき」特別PV 歌:芦田愛菜

日テレ社長も感動した芦田愛菜の熱演。この声の演技についてまさに賛否両論が巻き起こっている。アニメファンには、スタジオジブリ作品もそうだが「声優に主役を任せない」細田監督の方針が反発を買い、俳優の芦田には声優ほどの技術がないという批判もある。一方で、スカーレット役が芦田愛菜だとは分からなかった(ほどハマっていた)、苦しみ絶叫する声や歌唱が上手いと評価する声も聞く。