芦田愛菜の声の演技はさすが

筆者も「愛菜ちゃん、上手いなぁ」と唸った側だ。

デンマークの王女であるスカーレットは父親である王を叔父に殺され、復讐心に取り付かれている。格闘術の練習に励むなど自らを追い込んで鍛え、叔父を暗殺しようとするが、失敗してみずからが死の淵に追い込まれ、死者の国に落ちる。ゆえに、序盤から苦悶しっぱなしの、まさに女性版ハムレットなのだが、芦田の声は日本の若い女性に多い甲高いふわふわした音ではなく、ハスキーで、迫力がある。さらに、現代日本から死者の国に来た看護師・ひじり(岡田将生)と心を通わせていく、揺れる乙女心の表現はさすがで、同性が聞いても嫌味がない。

少なくとも興行成績の責任が、芦田愛菜にあるわけではないだろう。2020年に主役の声を演じた『えんとつ町のプペル』は興行収入27億円を達成している。そもそも今の時代、“数字を持っている”絶対的なスターは存在せず、興収173億円を達成した『国宝』の吉沢亮にしても、同じ2025年公開の主演作『ババンババンバンバンパイア』では推定5億円弱にとどまっているし、ましてや顔を出さないアニメでの声の主演なのだ。

女性描写を批判された細田監督

むしろ、子役時代から芦田愛菜を見守ってきた人たちからは、『果てしなきスカーレット』が彼女の汚点、黒歴史になるのではと危惧する声も上がっている。というのも、これまで細田守監督の女性描写はたびたび批判を受けてきたからだ。

筆者にも忘れられない思い出がある。2012年の『おおかみこどもの雨と雪』公開時、ちょうど劇中の「雪」「雨」姉弟と同年代である保育園に通う子どもがいた。試写を観た後、18時のお迎えに間に合うよう自宅方面に戻る予定だったが、同作の内容が衝撃的すぎて、かなり動揺してしまった。ここは心を落ち着かせてから子どもを迎えに行こうと思い、保育園に電話をして延長保育を頼み、近くのスターバックスに入った。

筆者にはどうしても主人公の母親・花(宮﨑あおい)の気持ちが理解できなかった。19歳からシングルマザーとして13年間、子育てに全てを捧げた花、たいへんすぎないか? しかも、それを「お母さんはすごい」というような母性神話、美談として描いていないか?

彼女はなんのためにせっかく入った大学(一橋大学がモデル)を中退してまで、おおかみおとこ(大沢たかお)との同棲生活を選んだのか。学生のうちに子供を2人産み(避妊は?)、相手の男にはあっさり死なれ、医療や福祉にも頼れずに、知人のひとりもいない山奥の古民家を自力でリフォームして畑を耕すことになったのか。