前田哲郎さん(38)は、スペインで最も有名な日本人シェフだ。「世界のベストレストラン50」で3位に選ばれた店で副料理長を務め、今年5月に独立。新店は世界中の美食家を惹きつけている。そんな彼は25歳まで定職を持たないフリーターだった。前田さんの数奇なキャリアを、ライターのきえフェルナンデスさんが取材した――。
スペインで最も注目される日本人シェフ
スペイン北部のバスク地方にある人口約200人の村アシュペ。ここにできた日本人シェフの店「Txispa(チスパ)」が世界的に注目を集めている。
オーナーシェフの前田哲郎さん(38)は、2019年と2021年にグルメ界のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」で3位に選ばれた「アサドール・エチェバリ」(以下、エチェバリ)で、2022年3月まで副料理長を務めていた。
そして今年5月、薪焼きをメインとしたレストラン「チスパ」をオープンした。スタッフは総勢8名、テーブル6卓24席の小さな店で、メニューはおまかせコース250ユーロ(約3万7000円)のみ。
アクセスのいい場所ではないが、世界中の美食家が続々と来店している。最近では実業家の堀江貴文さんも来店。オープンわずか3カ月でミシュランガイドの公式ウェブサイトにも掲載された。
食通たちから熱い視線を集めている前田さんだが、12年前にスペインへ渡るまでは、シェフになるつもりはなかったという。
料理学校を卒業したわけでも、日本や海外で修行したわけでもない。スペイン語も英語も話せない。ましてやスペインの位置すら把握していなかったという彼は、どうやって現在の地位を築いたのだろうか。