諸外国と比べて日本は「いい国」なのだろうか。ライター・編集者の中川淳一郎さんは「そんなことを気にする必要はないのに、日本人が自信を喪失しているので、『日本はすごい』というニュースが注目を集めてしまう。評価軸はあくまで自分のなかに置くべきだ」という──。

WBCで続出した「日本アゲアゲ」記事とは

少し前の話になるが、2023年3月21日、野球の世界一決定戦・WBCにおいて、日本代表は見事優勝を果たした。非常に喜ばしいことだし、関係者には心から「おめでとうございます!」と伝えたい。私は2006年、2009年のWBCでも生中継で日本が優勝した瞬間を見ていたので、実に感慨深いものがある。

しかしWBCに関連して、どうしても気になる日本の報道、そして空気感があった。それは「海外の人々が日本を絶賛!」式の記事がネットに頻出したことだ。スポーツ紙のウェブ版、スポーツ専門サイト、ウェブ限定メディアなどがこぞって「これはアクセス数が稼げるチャンス!」とばかりに、すさまじい量の「日本アゲアゲ記事」を掲載したのである。

日章旗と野球ボール
写真=iStock.com/ronniechua
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予選である東京ラウンドが行われていた際、海外の選手やその家族、そして海外記者らが、日本で体験したことをツイッターやインスタグラムなどSNSを通じていろいろと発信した。日本のメディアは、それを基に記事を量産したのだ。正直、それらの大半はSNSを眺めているだけで作成できてしまうようなお手軽記事ながら、これが多数のアクセスを稼ぎ出してしまう。もちろん「Yahoo!ニュース」といったポータルサイトなどにも配信され、アクセスランキングで上位に来る。メディアからすれば、ラクをして数字が稼げるのだからウハウハである。

他国の選手をダシにして日本を上に置こうとする醜悪さ

そうした記事は基本的に「日本人のおもてなしと親切さに外国人感激」「日本の食のレベルとコスパに外国人感激」「日本人選手の紳士っぷりに外国人選手感激」「日本の観光地と娯楽を外国人絶賛」といった内容で、展開も類型的だ。

今回のWBCに関係した日本礼賛記事のなかでも、特に話題にされたのがチェコ代表である。同国のメンバーは野球が本業ではない選手が多いこともあってか、「チェコ代表、ロッテ・佐々木朗希からお菓子をもらって感激」などの記事が乱発された。「日本の一流プロ野球選手から親切にしてもらい、格下であるチェコのアマチュア選手がこんなに喜んじゃってますよ」という“上から目線”のニュアンスが行間からにじむようで、私はたいへんイラついた。

完全にチェコを見下した論調で日本をアゲようとする姿勢は、たとえるなら、1988年の冬季五輪(カルガリー大会)に出場したボブスレーのジャマイカ代表に対し、強豪国がとったような態度と同じである。相手を値踏みしつつ、「どうです? 日本の野球ってすごいでしょ? 日本の先進国ぶりにほれぼれするでしょ?」といったアピールをチラチラ出してくる。

そんな自意識過剰の視点で切り取られた記事が、チェコ代表まわりで数多く見受けられた。1993年公開の映画『クールランニング』で描かれた、「所詮は素人」と小バカするような、あの見下し感だ。同作は、カルガリー五輪に出場した雪のない国・ジャマイカ代表のボブスレーチームの珍道中をコミカルに描いたものだ。作中のジャマイカ代表は要するに寄せ集め集団であり、それまでウインタースポーツに縁もゆかりもなかった素人ばかりがそろっている。そんな弱小チームが、どんなに強豪国からバカにされても誇りだけは失わず、大活躍する。その姿が痛快であり、感動的だったわけだ。