幸せな人生を送るための秘訣とはなにか。ライター・編集者の中川淳一郎さんは「絵空事のような『夢』ではなく、現実的な『目標』を持つこと。そのうえで、目の前の仕事に粛々と取り組みながら、さまざまな場所に首を突っ込み、よい出会いを得ることが重要ではないか」という──。

マツコ・デラックスの番組内コメントに膝を打つ

2023年8月14日に放送された「5時に夢中!」(TOKYO MX)で、マツコ・デラックスが語った「夢」に対する言説が実にしっくりと来た。私はウェブメディアの「Sirabee」の記事で一連の発言を知ったのだが、人生の要点を見事に突いた内容に唸らされた。あれほどの成功を収めた人物でありながら、実に謙虚だと思わせる名言が並んでいる。

マツコ・デラックス(東京モーターフェス2018)
マツコ・デラックス(東京モーターフェス2018)(写真=TTTNIS/CC-Zero/Wikimedia Commons

今回は、マツコが番組内で語った内容を引用したり、解釈したりしながら、私なりに常々考えている「幸せな人生の有り様」について述べていこうと思う。基本的には「私は私。あなたはあなた。それぞれに幸せな人生があるし、いちいち比較するな」ということに行き着く話だ。

番組中のトークテーマは「人生のピーク 何十代のときに持ってくるのが最も幸せ?」というもの。マツコは30歳前後の頃、経済的には貧しかったが、今よりもずっと楽しかったと語った。この発言を踏まえつつ、以下、マツコの発言を共に見ていこう。

自分の置かれた状況をいちいち定義しない

【これから絶頂期が来るのでは? の問いに「ないっしょ」と即答】

→傍目から勝手に想像すれば、レギュラー番組の数とCMの数がとてつもなく多かった2010年代中盤頃がマツコの絶頂期で、それ以降も超高値安定で活躍し続けていると感じられる。

私は、このくだりのマツコの一連の発言について、「『不遇な時代』だの『昇り調子』『絶頂』『安定』『下降』『没落』だの、いちいち定義しようとしなさんな。どんな状況であれ、あなたはあなたであり続けているのだから」と解釈した。一般的には、仕事が多い“売れっ子”状態が「絶頂」と捉えられがちだ。が、前出の「30歳前後の頃が今よりずっと楽しかった」発言と合わせて考えると、「カネをがっぽがっぽ稼げる=絶頂」という意図をマツコが持っていないことがわかる。

この「絶頂」という言葉は、メディアがしきりと言いはやす「勝ち組・負け組」にも通じるところがある。自分が置かれている状況を過剰に意識してしまい、「オレは勝ち組だ、ガハハハ。愚民どもをタワマンの40階から見下ろすのは気持ちいいな!」や「オレは負け組だ。大学の同期たちは年収1000万円を超えているのに、オレは300万円台……」などと一喜一憂する。でも、それになんの意味があるというのか。

これを私自身に当てはめてみると、世間でいわゆる「一流」とされる会社にいた23歳~28歳の頃を「絶頂」と捉える人もいるだろう。あるいは、会社を辞めてフリーになり、その後、会社をつくって最も稼いだ2013年が「絶頂」と見なされるかもしれない。現在、私は「もう競争はどうでもいい」と東京から離れ、佐賀県唐津市で半隠居生活を送っているが、人によっては「そんな余裕ある生活こそが『絶頂』でしょう」と評価するのだろうか。「あなたは悠々自適でいいですね」と。