“集団転校”は正しいのか間違いなのか。駅伝名門の福岡・大牟田高校の実績豊富な指導者が今春より県外の高校に移るのに伴い、長距離部員19人中18人も転校予定だ。スポーツライターの酒井政人さんは「親やOBなど“大人の論理”で決断を余儀なくされたとすると、残念なことだ」という――。

駅伝強豪・大牟田高校“集団転校”のウラにあるもの

全国高校駅伝準優勝校の“集団転校”が話題になっている。

全国高校駅伝で5度の優勝を誇る名門・大牟田高(福岡)の赤池健ヘッドコーチが新年度から鳥取城北高の監督に就任。赤池氏の指導継続を求めた大牟田高の長距離部員19人中18人が鳥取城北高へ転校する見込みだという。

男子5区、仙台育英の市川太羅(奥)を引き離し、競り合う大牟田の塚田虎翼(左)と佐久長聖の酒井崇史=2024年12月22日、京都市内[代表撮影]
写真=時事通信フォト
男子5区、仙台育英の市川太羅(奥)を引き離し、競り合う大牟田の塚田虎翼(左)と佐久長聖の酒井崇史=2024年12月22日、京都市内[代表撮影]

果たして、この判断は正しいのかどうか。選手の意思や希望を尊重することも大切だが、今回の集団転校には高校スポーツ界を考えるうえで、さまざまな問題が潜んでいる。

赤池氏にあった体罰問題

ことの発端は赤池氏の体罰問題だ。

赤池氏は大牟田高の監督時代、部員に対して平手打ちなどの体罰を行っていたことが発覚。2023年4月に退職願を提出した。しかし、部員や保護者の要望を受けるかたちで、学校は部活のみを指導する「部活動指導員」として赤池氏を復帰させた。その後はヘッドコーチという肩書ながら、実質、駅伝部の指揮を執っていた。

2021年と2022年は全国高校駅伝の出場を逃したが、2023年は3年ぶりに出場して6位入賞。2024年は2位と赤池氏が監督に就任した2006年以降、最高成績となった。結果的に、体罰問題から右肩上がりで結果を残していることになる。赤池氏の教え子には今年の箱根駅伝でも活躍した太田蒼生(青学大)、馬場賢人(立教大)らがおり、選手育成力は多くの関係者が認めている。

過去に体罰問題で退職した指導者のなかには、部員や保護者から熱烈な支持を受けていた者がいた。赤池氏と同じように結果を残すという意味では“抜群の指導力”があったからだ。

大きな実績を残している赤池氏に対して、学校は教諭(&駅伝部監督)から駅伝部ヘッドコーチに“降格”したことで、収入面でも影響があったと思われる。さらに、同校は監督に同校OBを招聘することを決め、赤池氏を排除するような動きに出た。それを受け、待遇などを考慮して、新天地からのオファーを引き受けたのではないだろうか。

もし、過去の体罰問題がなければ、大牟田高での指導が続き、今回のような騒動は起きていなかったと考えられる。赤池氏の鳥取城北高監督就任はいわば“転職”であるため、外野がとやかく言う問題ではない。しかし、今回の“集団転校”は考えないといけない問題がたくさんある。