炊き出しを目当てに並ぶ“炊き出し界隈”にはどんな人がいるのか。自身も路上生活を体験したルポライターの國友公司さんは「路上の世界には、時折“超人”が紛れ込んでいる」という――。

※本稿は、國友公司『ルポ路上メシ』(双葉社)の一部を再編集したものです。

コートを着て路上で寝ている人
写真=iStock.com/Skyak
※写真はイメージです

炎天下の炊き出しは死と隣り合わせ

ホームレスの夏は早い。夏真っ盛りとは言えない6月でも、路上生活者には、日に日に凶暴さを増す直射日光が頭上から降り注ぐ。結果、常に日陰を探し求め、日中は冷房の効いた商業施設に逃げ込むことになるのだから、彼らにとっては立派な夏である。

暑さに耐えながら炊き出しに並ぶ人々
筆者撮影
暑さに耐えながら炊き出しに並ぶ人々

メシを受け取るまでに行列に並ぶ必要がある炊き出しも、夏の暑さの影響をモロに受ける。NPO法人や社団法人による炊き出しは、並ぶ時間はせいぜい15分程度なのでいい。

しかし、炊き出しの多くを占める韓国系キリスト教会の場合、メシを受け取る前に牧師の長い説教を聞かなければならないのだ。短くても30分、長ければ1時間半以上も説教が続くことがある。

「暑すぎてとてもじゃないけど並んでいられないから、夏はキリスト教の炊き出しには来ないようにしているよ」そう話す人もいるくらいだ。

並んでいる人の多くは65歳以上の高齢者だ。熱中症で倒れてしまう危険性もあるし、下手したら命だって落としかねない。にもかかわらず「主はあなたを救ってくれるでしょう」と、延々と参加者たちに幸せを説き続ける牧師の姿に憤りを覚えることも多い。

約100人がご飯目当てに牧師の説教を聞く

上野公園の炊き出しに訪れたこの日も、とにかく暑かった。韓国系キリスト教会による炊き出しは、まず番号の書かれた整理券をもらうために行列に並ぶ。

「先生の話を座って聞ける人は前に、立って聞く人は後ろに並んでください。先生が話している途中に変えることはできないですからね」

行列を取り仕切るスタッフの男性がそう説明しながら、約100人の参加者を誘導する。牧師の説教を聞く際、前のほうにいる人が立つことで、後ろにいる人の視界が遮られることを避けたいのだろう。

上野公園で行われた炊き出しの行列
筆者撮影
上野公園で行われた炊き出しの行列

これはつまり、行列の前方に並んで2回目、3回目と食料をたくさんもらうためには、地べたに直に座らないといけないということでもある。私は取材者の身なので、もらうのは1回でいいし、なによりズボンが土で汚れるのが嫌なので後ろに回った。

前方に並ぶ人の中には、折りたたみ式のミニチェアを持参している人が何人もいた。なるほど。それなら服が汚れたり、腰を痛めたりすることなく、比較的楽に牧師の長い話を聞くことができる。

私も次回から持っていこうかなと思うくらい、ミニチェアがうらやましく見えた。