喫煙が健康に悪いのは間違いない。しかし、内科医の名取宏さんは「当然ながら、それでもタバコを楽しむというのも個人の自由だ。ただし、喫煙のリスクとメリットを冷静に比較したうえで選んでほしい」という――。
コニャックとシガー
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喫煙と寿命の関係

タバコが寿命を縮めることは誰でも知っています。若いころから吸い始めて長く続けるほど、寿命への影響は大きくなります。

実際、喫煙者は非喫煙者と比べて平均で約10年も寿命が短いとされています。いま喫煙している人の中には不安を覚えた人もいるでしょう。「だけど、今さら禁煙しても遅いのでは」と思われたかもしれません。

そこで参考にしたいのが、禁煙によって寿命への影響がどこまで回復するかについての研究です。米国の大規模な調査データをもとに、喫煙者・非喫煙者・禁煙者の死亡率を比較し、平均余命を統計モデルで推定したものです。それによると、35歳で禁煙すれば平均8.0年、45歳で5.6年、55歳で3.4年、65歳で1.7年、75歳でも0.7年の寿命延長が見込まれると報告されています(※1)。他の研究結果を参照しても、おおむねこの程度が一つの目安といえます。

若い時期に禁煙するほど効果は大きい一方で、高齢になってからでも一定の利益があることが示されています。たとえば、あなたが55歳の喫煙者なら、禁煙によって平均3.4年も人生が延びる計算になります。喫煙を続けるということは、その時間を差し出して喫煙の価値を選ぶことでもあるのです。

※1 The Benefits of Quitting Smoking at Different Ages - PubMed

意外と知られていない「タバコの害」

タバコで寿命が縮まるのには理由があります。喫煙は、がん、心臓や血管の病気、肺の病気など、多くの重い病気のリスクを高めるためです。

喫煙者は非喫煙者に比べ、約3~5倍も肺がんになりやすいといえます。日本人の肺がんによる死亡のうち、男性では約6割、喫煙率の低い女性でも約2割が喫煙に起因すると推定されているのです。さらに喫煙は、他の種類のがんのリスクも上げます。

そのほか、タバコは血管を傷つけて動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくします。これらの病気は命を奪うこともありますが、助かったとしても後遺症が残り、介護が必要になったり、認知機能低下につながることもある病気です。

また、タバコは「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」を引き起こすことも。COPDになると息切れや咳が続き、日常動作がつらくなります。重症になると酸素吸入が必要になり、酸素濃縮器や携帯用酸素ボンベを使うことに。在宅酸素療法中は火気厳禁です。お線香やガスコンロなども使えませんし、焼肉などの火を使う外食も制限されます。

このように喫煙の問題は寿命を縮めることだけではありません。病気や後遺症によって生活の質が低下し、日常生活の制限や介護の必要につながる点も大きな問題です。