信じたくなるようなデマには要注意

ここまで読んでいただくと、健康面だけを考えれば、タバコは吸わないほうがいいとわかっていただけるでしょう。もちろん、「そんなことはよくわかっている」という読者の方がほとんどだと思います。

ただ、最近はSNSや動画サイトで「喫煙は肺がんと関係ない」といった誤情報をよくみかけます。根拠に乏しくても信じたい人がいるからデマが広まるのでしょう。

「60代以降の人は禁煙しても寿命は延びないのでタバコをやめる必要はない」と主張する医師もいます。しかし、その根拠とされているのは、30年以上も前の老人ホーム入所者の喫煙者と非喫煙者を比較した小規模な研究でした。

このような単一の研究結果で、医学界のコンセンサスが覆ることはありません。複数の研究を統合したメタ解析において、高齢者に限っても喫煙は死亡の強力なリスク因子であり、どの年齢であっても禁煙の健康上のメリットは明らかであることが示されています(※2)

なお、「禁煙をするとストレスが増えて体に悪い」という主張をよく聞きますが、医学的な研究で支持されているわけではありません。

※2 Smoking and all-cause mortality in older people: systematic review and meta-analysis - PubMed

インフォームドコンセントが大切

このようにタバコの害を誤って小さく見積もり、喫煙を続けるかどうかを判断してしまうのは大問題です。健康上の害については正確に知っておく必要があるでしょう。

ペンで模型の心臓を指しながら説明している医師
写真=iStock.com/Panuwat Dangsungnoen
※写真はイメージです

これは医療と共通する点があります。医療では、医師が一方的に手術や投薬などの治療を押しつけるのではなく、「インフォームドコンセント」といって、その治療の利益と害をきちんと説明したうえで、患者さん自身が行うかどうかを決めます。

大切なのは、正確な情報が伝えられたうえで選択することです。喫煙も、本来はインフォームドコンセントに基づいて吸うかどうかを判断すべきものだと思います。将来のある若者に比べれば、高齢者では相対的に喫煙の害が小さくなるのは事実です。しかし、「高齢者は禁煙しても寿命が延びない」といった誤った情報にすり替えたうえで判断させるのはいけません。それは薬の効果について事実と異なる説明をして治療を選ばせるのと同じで、当事者の自己決定権を損なう行いだからです。