「絶頂期」の解釈は人により異なる

このように、人生の状況をどう捉えて、どう表現するかは人によって違うのだ。だからマツコも「絶頂」について「ないっしょ」と即座に返したのでは。気持ちを穏やかに保ちたいのであれば「さまざまな経験と蓄積を経て、現在の自分がある。いろいろあったけど、なんだかんだいって、今が一番幸せかもな」くらいの緩いポジティブさを持つのがよいのだろう。

私自身、4歳あたりから常に「今が一番いい」と感じながら生きてきた。28歳の3月31日で会社を辞め、無職になり、渋谷駅から徒歩25分・風呂なし・家賃3万円のアパートに入居した。そのときはさすがに「これからオレはどうなるのだろう……」という不安にかられた。しかしながら、一方で「もう、会社員時代の激務には戻りたくない。だから今のほうが幸せだ」とも思った。なお、最も激務続きだった入社4年目頃の私は「クソ忙しくて死にそうだけど、この若さで年収800万円台後半を得ているし、今が一番いい」と考えていた。

いよいよ会社員生活に耐えられなくなり、退職を決断した瞬間は「今が最悪だ!」と思ったものの、辞めると決めた数十分後には「会社を去る決定をした今の自分は最高だ」というメンタリティになることができた。このように、常に「今が最高」「絶頂は死ぬ直前に来るのだろう」くらいの感覚を意識的にでも持つようにすると、生きるのがラクになる。そのほうが余計なことにクヨクヨしたり、ドヤ顔を決めて他人を見下したりすることもなくなるはずだ。

旅行は出かける直前が一番楽しい

【「何かを手にする前が一番楽しいじゃない人間って」】

→これは「絶頂」という概念にとらわれないマツコらしい発言だ。「絶頂」を経験したらあとは下降するだけ、というような価値観を持っている人と完全に相いれない考え方である。マツコは「カネはなかったけど、30歳前後の頃のほうが今より楽しかった」といった話をしていたが、「今後の人生で、あの頃より楽しい時間は来ない」とまでは言っていない。つまり、まだこれからも「何かを手にする前」のワクワク感を味わえるかもしれない、ということだろう。

この「何かを手にする前が一番楽しい」については、たとえば海外旅行が挙げられる。小学生の頃、修学旅行や林間学校の前日に期待感が高まっていくのが楽しくて仕方なかった。それと同様の感覚で、私はオッサンになった今でも、海外旅行は「出かける直前が一番楽しい」と感じる。実際に旅行が始まってしまうと、あとは「素晴らしい旅行の時間がどんどん減っていくだけ」という状況になるのだから。

「5泊6日、タイ・バンコクの旅」に出かけたとしよう。空港へ行くバスや電車に乗っているとき、ワクワクはMAXとなる。行きの飛行機もそれなりに楽しい。現地での初日は移動などで疲れていることもあり、夜は気持ちよく眠りにつけるのだが、2泊目の夜には「あぁ……もう2日目が終わってしまうのか」と、早くも寂しさを感じ始める。3日目の午後になると「ついに折り返し地点まで来てしまった……」と残念な気持ちが高まっていく。帰国前日を迎えてしまうと、心にはもはや寂しさしか存在せず、「タイに来る前日に戻してくれ!」とひそかに懇願してしまう。旅では毎回、このような心持ちになるのだ。そう考えると、私は“空港まで行くための電車やバス”を最大の楽しみに、次の旅を計画しているのかもしれない。