※本稿は、八十恵『エジプト人の「いい加減」でがんばりすぎない生き方』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。
恋愛結婚だけど、交際期間は0日間
わたしはエジプト人で、夫は日本人です。
お見合いではなく恋愛結婚なのに、交際期間が一日もないまま結婚しました。
日本でそのことを話すととても驚かれます。でも、エジプトではとくに珍しいことではありません。エジプトでは婚約前に「好きです」と告白したり、交際して関係を深めていったりする発想そのものがないからです。お互いに「いいな」と思えるようになったら、交際を始めるのではなく、結婚を考えるのが自然な流れです。
夫と出会ったのは2011年のことでした。
民主化運動の「アラブの春」が起きていた頃のことです。
以前からわたしは日本に対して強い興味をもっていました。
父親が柔道のコーチをしていた関係もあり、子供の頃から家にはサンリオのおもちゃや日本の電化製品などがあったりしたのです。
父がビデオを持っていたことから、ビートたけしさんの『風雲!たけし城』も繰り返し観ていました。
「すもうでポン」や「だるまさんがころんだ」などのコーナーが好きでした。
そんなバックボーンもあり、日本語学校に入学して日本語を勉強するようになったのです。
出会いは日本語学校のイベントだった
その後、東日本大震災のあとに参加した日本語学校のイベントではじめて夫と会いました。そのときの印象はほとんどないというのが正直なところです。
基本的に無口なタイプなので、まったく話もしなかったのかもしれません。
『スラムダンク』の流川楓のような顔だな、という印象だけはありました。それを人に話すと「まったく似てないよ」と言われます(笑)。
夫の名字は「八十」と書いて、「やそ」と読みます。
日本でもなかなか珍しい名字だと思うのですが、その頃のわたしは、日本にそんな名前があるなんて知りませんでした。
だから、そのイベントでも、みんなが名前を書いているところに、なぜ彼だけは“数字”を書いているのかな?と不思議に思っていたのです。
それが80というナンバーではなく、八十という名字なのだとようやくわかったのは2年ほど経ってからのことでした。
彼は仕事の関係でエジプトに滞在していたこともあり、少しずつ会う機会が増えていったのです。彼はあいかわらず、あまり話はしなかったけれど、頼もしい人だなという好感をもつようにはなっていきました。