考古学者と呼ばれる人たちは、普段どのような生活をしているのか。『考古学者だけど、発掘ができません。』(ポプラ社)より、駒澤大学の大城道則教授の海外の賓客へのおもてなしにまつわるエピソードを紹介する――。(第1回)
世界一有名な考古学者からの突然の連絡
プレッシャーに押しつぶされそうになるとは、まさにこのことだ。だいたいいつもそうなのだが、あの人は予想外・想定外の動きをする。あの人とは、そう世界一有名な考古学者であり、「古代エジプトの守護神」の異名を持つ元エジプト考古大臣ザヒ・ハワス博士だ。
「考古大臣」とはエジプトならではの役職であろうが、文化財や数々の考古学的発見を基盤とした観光が経済を支えているエジプトでは、かなり影響力を持つポストである。
学生の頃からテレビ番組にたびたび登場する彼と初めて直接会ったのは、エジプトのカイロのザマレク地区にある考古省の彼のオフィスを訪ねたときである。もうかれこれ今から20年近く前のことだ。
何のために行ったのかはあまり覚えていない。発掘調査前の挨拶か陳情に行ったような気がする。誰と行ったのかも記憶が定かではない。エジプトのギザで長年発掘調査を実施しているマーク・レーナー先生と一緒に行ったのが初めてだったような気もする。それ以来、ザヒ・ハワス博士には何度もお会いしている。彼が考古省を退職してからもだ。
昔は理由もなく怖かったが、最近はそうでもなくなった。温厚になった気がする。ただあと数年で齢80になろうとしている今でも迫力は十分にある。
2023年のある日、そのハワス博士からエジプト大使館を通して連絡があった(彼からの連絡はいつも急だ)。2カ月後に来日するので講演会の会場を探しており、駒澤大学でも記念講演ができないかと言うのである。エジプト学者としてエジプトに行く機会も多いし、何よりも影響力の強いハワス博士からの依頼を極東に暮らす二流のエジプト学者である私が拒否できる可能性はゼロだ。
なにはともあれ「イエス」から始めた。その瞬間から嵐のような私の夏が始まったのである。