後悔のない老後を過ごすにはなにが大切か。医師の和田秀樹さんは「いま我慢すれば将来報われる、と考えてはいけない。やりたいことができる時間は限られている。私も体調不良で死を意識したときは、いま楽しめることをやりきろうと決意した」という――。(第1回)

※本稿は、和田秀樹『医師しか知らない 死の直前の後悔』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

シニア男性
写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich
※写真はイメージです

「我慢すれば報われる」という価値観

高齢の患者さんと接していると、ときどきこんなことをおっしゃる方々がいます。

「先生みたいに、もっと自由に生きればよかったなぁ」。
「もっと好きなことをやっておけばよかったよ……」。

そのように話される方の多くは、それまで仕事や家事、育児などに追われ、自分のやりたいことを十分にやる時間が持てなかったようです。そもそも日本では、子どものころから「我慢は美徳」という価値観が根づいています。

「今を犠牲にすれば、将来に報われる」――そんなふうに教えられて育ってきた人がとても多いのです。

子ども時代は「遊ぶのを我慢して勉強しなさい」と言われ、がんばれば、いい大学や大企業に入れて楽ができると信じてきました。社会人になれば、「今がんばって働けば、きっと出世して報われる」と言われ、長時間働くことが当然になりました。とくに終身雇用や年功序列が当たり前だった時代には、若いころに「苦労は買ってでもしろ」と言われながら、安い給料でハードに働かされてきた人も多いはずです。

ところが、現実にはそうした制度も次第に崩れていき、かつて上の世代から言われてきた将来の報いはあまり実現しなくなってきています。

それでもなお、「我慢は美徳」「今を耐えれば、あとでいいことがある」という考え方は日本人のなかに根強く残っているように思います。