老後を幸せに過ごすために、注意すべきことはなにか。医師の和田秀樹さんは「気軽な免許返納には要注意だ。メディアでは高齢者による事故の危険性が報道されているが、実際には若者に比べて死亡事故率は高くない。運転をやめると要介護リスクが高まるという研究もあるため、慎重に判断したほうがいい」という――。(第3回)
※本稿は、和田秀樹『医師しか知らない 死の直前の後悔』(小学館新書)の一部を再編集したものです。
長生きだけが大切なことではない
私はいままで6000人以上の高齢患者を診てきましたが、日本では高齢者の自己決定がなかなか尊重されにくい傾向があります。
本人はまだ元気で判断力もしっかりしているにもかかわらず、「もう歳だから」という理由だけで、周囲からさまざまな制約を受けてしまうことがあるのです。結果として、本人の意思とは裏腹に行動を制限されてしまう場面が増えていきます。
たとえば、高齢の親が毎晩の晩酌を楽しみにしていたり、タバコを嗜んでいたりすると家族から「もういい歳なんだから、やめたほうがいい」と言われることがあります。
けれども、本人はそこまで長生きしたいと思っておらず、それよりも自分の好きなものを楽しんで生きたいと思っているなら、それを周囲の人が止めるべきではないでしょう。
食事についても、「塩分を控えたほうがいい」などと周囲から注意を受けることが増えていきますが、高齢者にとって食事を楽しむことは数少ない喜びのひとつであり、「そこまで制限しなくてもいいのに」と感じている人も少なくないのです。
旅行や外出に関しても、子どもから「旅先で転んだりしたらどうするの」「高齢者の海外旅行なんて危険に決まっている」などと言われてしまい、行きたい気持ちにブレーキをかけてしまう人もいます。
その結果、外出の機会が減って家にこもりがちになる高齢者もいます。

