相続争いを避けるために親が生前にできることはなにか。相続専門の税理士・天野隆さんは「節税対策や現金での納税準備は大切だが、ほかにも見落とされがちな財産がある。これを子供に与えていることが“争族”化を防ぐポイントだ」という――。

※本稿は、天野隆・税理法人レガシィ『相続は怖い』(SB新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

遺言書
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財産を均等に分けても“争族”になる

基本的に相続は、「相続でモメない」「上手な節税」「しっかりした財源がある」の3つがそろえば、相続人の誰もが満足できるものになります。

相続人である子供に関して親がいちばん気をつけなければいけないことは、財産が少なくなりそうな人に配慮することです。

たとえば親が医院を経営していて、子供2人のうち、1人が医師でもう1人は医師でなかったとしましょう。すると親の医院の土地・建物はもちろん、地位も評判も医師である子供が引き継ぐことになるでしょう。

そのような場合、私たちは医師でないほうのお子さんに配慮することをおすすめしています。

遺言を書く場合には、私たちがインタビューで医師でないお子さんの長所を盛り込みます。心優しいとか友達が多いなどの長所を、親である自分は誇りに思うといったようなことです。

財産的配慮ももちろん大切ですが、心情的配慮もなされていると、子供の受け止め方が全然違ってきてモメにくくなります。

いい相続の肝は「親心」

モメた例ではありませんが、相続を通じて親心が伝わったエピソードをお話ししましょう。

あるご家庭ではお父様が娘さんを受取人として生命保険に加入していました。亡くなる何年も前に病気で入院したとき、最初に心配して駆けつけてくれたのがその娘さんだったというのです。

保険のセールスパーソンに、「心優しい娘に多く遺してやりたいから、もう1本生命保険に入りたい」と連絡があったそうで、父親が自分のためにわざわざ保険に追加加入してくれたことを知った娘さんは、涙ぐんでいたということです。

子供たちが親心を実感できる言葉を残しておくことが、「いい相続」のキモなのではないかと思います。