※本稿は、天野隆・税理法人レガシィ『相続は怖い』(SB新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
国税調査官は“相続”にも容赦しない
昭和62年(1987年)、伊丹十三監督の『マルサの女』という映画が大ヒットしたのをご存じでしょうか?
「マルサ」とは国税庁と国税局に配置されている国税査察部などの部署のことをいいます。平たく言うと脱税していそうな法人・個人にあたりをつけて調査する(税務調査)部署で、そこに勤務する人たちは国税調査官と呼ばれます。
「マルサの女」は国税調査官の女性を主人公にした映画で、国税に精通した人たちの間では伊丹監督の入念な取材力が話題に上りました。
唯一架空だったのが車の上に潜望鏡(望遠鏡のようなもの)を立てて脱税していそうな人物の張り込み調査をするという部分で、それ以外はほとんど実際の税務調査と同じと言っても過言ではなかったからです。映画を見た人はおわかりと思いますが、『マルサの女』では執拗にターゲットの調査を進め、真実に迫っていきます。
映画で調査の対象となったのは、パチンコ店やスーパーなどでしたが、執拗に調査を進めるのは個人を対象とした相続税でも変わりはありません。彼らの目的は1円でも多く相続税を納税させることなので、申告書の内容に疑問の余地があれば容赦なくそこを突いてきます。
相続人の「目の動き」まで見逃さない
税務調査は申告書を提出してから1~2年後、ある日突然やってきます。
申告書提出の1~2年後といえば、「やれやれ、もう来ないだろう」と安心している人もいることでしょう。そんなときにひょっこりとやってくるのですから、いやが上にも驚きは大きくなるようです。
まずは「相続税の申告内容についてお尋ねしたい点があります」と電話がかかってきます。国税調査官と納税者のスケジュールをすり合わせて「その日」が決まります。
当日は10時ごろに調査官がやってきて、1時間の休憩をはさみ17時ごろまで行われます。昼食は外出して取るので、用意する必要はありません。
国税調査官はベテランと若手の二人組でやってきます。質問する人と書記的役割を果たす人に分かれます。
相続人が質問に答えるとき、調査官は相続人の目の動きを見ています。
というのも、大体人間は隠しているところをチラッと見るという癖があるからです。たとえば壁にかけてある絵などに視線を移したとしましょう。
そういう場合、どこかのボタンを押すとその絵がすーっと動いて隠し金庫が出てきたりします。ウソみたいな話ですが、そんなことが実際にあるのです。

