相続で「揉めない家族」になるにはどうすればいいのか。相続専門の税理士・天野隆さんは「生々しい争いは『あのときよくしてもらった』で避けられることがある。財産だけでなく“時間や信頼関係”に目を向けることで、誰にとっても納得のいく相続が実現できる」という――。

※本稿は、天野隆・税理法人レガシィ『相続は怖い』(SB新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

風呂敷
写真=iStock.com/kuppa_rock
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不動産所有者になりすます「地面師」

地面師とは土地の所有者を装って土地の売却を持ちかけ、売買代金をだまし取る詐欺師のことです。

2017年に起きた積水ハウス地面師詐欺事件のことを覚えていますか? 物件はJR山手線の五反田駅から徒歩3分の「海喜館」という600坪もの面積をもつ元旅館の土地で、80億~100億円の価値があるとされていました。この物件の売却を地面師に持ちかけられ、55億円をだまし取られた事件です。

この土地は駅に近い好立地のため、高層マンションを建てれば確実に需要が見込めるにもかかわらず、所有者が手放そうとしないことで有名な物件でした。

戸建て住宅を主力事業とし、マンション建設に関しては業界大手の後塵を拝していた積水ハウスに、中間業者を通して土地の所有者と名乗る女が売却を持ちかけたのが4月4日のことです。本人確認のためのパスポートと印鑑証明は偽造されたものでした。

詐欺の発覚を恐れて急がす地面師グループに、お宝物件を手に入れたい積水ハウス。両者の思惑が妙なところで一致し、4月24日に売買契約を締結。積水ハウスは手付金を払い、法務局にこの物件の所有権移転の仮登記を行います。

【図表1】地面師事件の構図
出所=『相続は怖い

そのあと、本当の所有者であるA氏から積水ハウスにあてて「売買契約はしていないので、仮登記を抹消せよ。さもないと法的手続きを取る」という趣旨の内容証明郵便が届きますが、同社は本人確認を済ませていたことからこの文書を「怪文書」と判断。握りつぶしてしまったのです。

不動産の割合が大きい家は他人事ではない

この土地の所有権移転の本登記の申請を法務局が受理したことを確認したのち、同社は残金を支払いました。

6月6日、法務局から申請書類に添付されていた国民健康保険証のコピーが偽造されたものと判明したとして、登記申請却下の連絡が入ります。

のちに警視庁が地面師グループを摘発。メンバー10人が起訴され有罪判決を受けましたが、積水ハウスが払った55億円は戻ってきませんでした。

だまされたのが一流企業であったことから有名になった積水ハウス地面師詐欺事件ですが、これは決して他人事ではありません。

というのも地面師グループにはリサーチ部隊というものがあり、日ごろから「この土地の名義人はもう亡くなっているだろう」と予想される土地を探し回っているからです。法務局に行って申し込みをすれば、誰でも登記簿を閲覧することができます。

さらに偽造部隊というものもあり、亡くなった人の名義で偽造パスポートを作ってなりすまし、「私がこの土地の所有者です」と主張して土地を売るというわけです。特に大きな土地ほど狙われます。

だから相続財産のうち不動産が大きな割合を占めている家ほど、誰が何を取るかなんて内輪モメをしている場合ではないのです。モメている間に地面師に狙われて詐欺事件に巻き込まれないとも限らないのですから。