「高齢者による死亡事故数」は増えていない

また、再就職やボランティア活動に挑戦しようとする親たちが、「今さらそんなことをしてどうするの」「もう歳なんだから、のんびりしていればいいのに」と子どもから否定的な言葉をかけられ、結果的に気持ちをくじかれてしまうケースもよく見られます。

さらに、多くの高齢者が直面するのが運転免許の返納問題です。

ニュースでは高齢者の運転事故が大きく取り上げられ、「高齢ドライバーは危険」というイメージが広がっていますが、実際には年齢だけで運転を制限する統計的な根拠はありません。

たとえば免許保有者10万人あたりの事故件数を見れば、免許をとりたての10代や20代前半のほうが事故率は高く、高齢者の事故率が特別に高いわけではないのです。(*1)

とくに死亡事故の件数に関しては、ここ10年ほど横ばいが続いています。高齢ドライバーの数がこの10年で約2倍に増えているのに、死亡事故数は増えていないのです。(*2)

実際には、重大な交通事故を起こす背景には、年齢よりも「運転禁止薬」による副作用や認知機能障害といった別の要因があることが多いと考えられるのです。年齢だけでリスクを判断できるわけではありません。

(注)
(*1)https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20231013143000.pdf
(*2)https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/koureiunten/kaigi/7/siryou/siryou1.pdf

運転をやめることで要介護リスクが8倍に

私は、これまでの著書でも「高齢ドライバーは危険」という一方的な決めつけに何度も疑問を投げかけてきました。最近ではそうした内容に共感して、子どもたちからの免許返納プレッシャーに対抗するために私の本を買ってくださる方も増えています。

それでも、「万が一、事故でも起こしたらどうするの」「もうそろそろ危ないんじゃない。やめておいたら?」といった周囲の声に押されて免許を返納する高齢者が多いのですが、やはり「免許を返納してしまったら、毎日の生活が不便になった」と嘆いている方も少なくありません。

一人で自由に移動できる手段を失ったことで日々の行動範囲が狭くなったり、社会参加の機会が減ったりした結果、老化や要介護状態の進行につながることもあります。

シニア女性と介護者
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです

実際に、「運転をやめた高齢者が要介護状態になるリスクは、運転を続けている高齢者の約8倍にのぼる」という調査結果(*3)もあるように、移動や外出の自由を奪うことは高齢者のQOL(生活の質)に悪影響を与えてしまうことがあるのです。

(*3)https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/gerontology/gold/about/page2.html