日本の「ものづくり」はAIでどう変わるのか。リコーの山下良則会長は「人間が本来やるべき仕事を明確にし、専念できる環境を整えることが大切だ。AIにできることはAIに任せればいい」という。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授との対談をお届けしよう――。
リコー・山下良則会長
画像=プレジデント公式チャンネルより
リコーの山下良則会長

リコーのDNAは「OA宣言」にあり

【田中道昭教授(以下敬称略)】2026年は、文章や画像の生成だけでなく、ロボットや自律システムを通じて現実世界を理解し、考え、そして実際に動く「フィジカルAI」の時代が本格化すると予想されています。新時代の幕開けを感じさせる一方、さまざまな分野でAIが人間の仕事を奪うといったネガティブな面も目立ってきそうです。

【リコー・山下良則会長(以下敬称略)】AI化の流れは私も強く感じています。ただ、リコーにとっては「突然の変化」でもないんですね。実は当社は1977年にオフィスオートメーション、OAという言葉を世界で最初に提唱した会社です。この造語のコンセプトは「機械にできることは機械に任せ、人間はもっと創造的な仕事をしよう」でした。

世界初の事務用高速ファクシミリを開発したり、複写機とコンピュータを組み合わせてソリューションを提供したりと、当社は製品とサービスを通してOAを実現してきました。AIはその延長線上ですから、リコーのDNAは何ひとつ変わりません。

【田中】実際に、社内でロボット活用の実証を進めていますね。

【山下】進めています。ただ、目的は人を減らすことではありません。人間が本来やるべき仕事に集中できる環境をつくるための取り組みです。

誰も読んでいない「月報」は必要なのか

【田中】米ギャラップ社の最新調査を見ると、従業員エンゲージメント(仕事への熱意や職場への愛着)の世界平均21%に対して、日本はわずか7%。調査対象141カ国の中で、エジプトなどと並び世界で最も低いグループに位置しています。さらに「いつAIに仕事を奪われてもおかしくない」という危機感が加わりかねません。

【山下】日本人のエンゲージメントが低いのは、仕事や組織の問題より「自分が役立っている」という実感がないことが原因ではないでしょうか。

【田中】仕事に意義や価値が見いだせないと。

【山下】私自身も若い頃に経験があります。当時は生産現場にいて社内向けの「月報」をまとめるのに、データ集計などで夜遅くまで残業することがありました。ある月に重大な誤りを掲載して配布してしまったんです。苦情が押し寄せると覚悟していたのに問い合わせひとつない。「ひょっとして誰も見てないのか」と、上司と相談して試しに配布をやめてみたら、やっぱり何の反応もない。誰の役にも立たない仕事のために残業していたのかとガックリきましたよ。月報は廃止しました。価値のない仕事は、積極的にやめるべきだと痛感した出来事です。