合理性を優先すれば想像力が枯渇する

仕事で企画を考えなければいけないのに、良いアイデアが思い浮かばない。そんな生みの苦しみを味わっているビジネスパーソンは多いでしょう。

しかも今はあらゆる場面で合理性が求められ、企画を提案する際も、目的や手段、費用対効果などを、明確かつ論理的に説明することが求められます。会社としてコストやリターンを数字でクリアにしたいのはよく理解できますが、発想の段階から合理性という名の制約に縛られてしまうと、ものを生み出すときに最も重要な想像力が失われてしまいます。

ビジネスで求められる想像力とは「存在しないものを思い描く力」です。「こんな事業や商品があったらいいな」とイマジネーションが膨らむのは、人間らしい感情や思いがあってこそ。むしろ合理性とは真逆にある、欲望や情熱といった人間の根源的な情念こそが、想像力の源泉ではないでしょうか。

齋藤孝『座右の一行』(プレジデント社)
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江戸川乱歩はまさに人間の情念が生み出す「あやしい世界」を描き出した作家です。“あやしい”は「怪しい」「奇しい」「異しい」「妖しい」とさまざまな漢字を当てられますが、そのすべてを包括したような独自の世界観を構築しました。あやしさ満載の乱歩ワールドを味わえる作品は多数ありますが、今回は荒唐無稽な企画を実現しようとする男を描いた『パノラマ島奇談』を紹介します。

物語はある男が自分の理想郷を夢想したことから始まります。彼が思い描いたのは、大自然そのものを使い、途方もなく大きな芸術を創作することでした。画家がカンバスと絵具を、詩人が文字を使って作品を創造するように、山川草木や生き物を材料として、彼が理想とする芸術的世界を作ろうと考えたのです。

「もし俺が使い切れぬほどの大金を手に入れることが出来たらばなあ(中略)俺の考えている地上の楽園、美の国を作り出して見せるのだがなあ」

とはいえ現実の彼は貧乏書生なので、所詮は「夢見る男」にすぎません。ところが大学時代の同級生で、自分と双生児のように容姿が似た大富豪の菰田こもだが病死したことを耳にし、ある計画を思いつきます。それは菰田が死後に蘇生したように装い、自分が彼に成り代わって巨万の富を手に入れ、夢に見た地上の楽園を実現することでした。

手の込んだ偽装工作により、菰田になりすました男は、一つの島全体を使って理想郷の建設に着手します。唯一の懸念は妻の千代子に別人だと勘づかれることだったため、男は彼女を遠ざけて、ひたすら島の建設事業に没頭しました。しかしある晩の出来事をきっかけに、妻に真相を知られたと確信した男は、非情な計画を遂行すべく、自身が「パノラマ島」と呼ぶ完成間近の理想郷へ妻を連れ出します。

現地に着いた千代子がまず目にしたのは、海上からつながるガラス張りの海底トンネルでした。上下左右に不思議な水底の光景が広がり、多種多様な魚や生き物が周囲を行き交うのを目の当たりにした千代子は「人外境じんがいきょうの美しさ、怖いほどもあざやかな海底の別世界」と感じます。

今でこそ旭山動物園の水中トンネルのように、海の中に生息する生き物の姿を間近で見られる施設も増えましたが、本作の雑誌連載が始まったのは大正時代。当時の読者にとって男の発想がいかに奇想天外だったかがわかります。

(構成=塚田有香 イラストレーション=米山夏子)

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