厄介者のプロに手を貸してもらうには

昨年は全国各地で熊の出没と人身被害が相次ぎました。しかも本来の生息地である山林やその近辺だけでなく、民家の多い場所や市街地にまで姿を現し、住宅やスーパーマーケットの中で人が熊に襲われるという信じがたい事例が連日のように報道されました。

私が出演するニュース番組や情報番組でも、この話題を何度も取り上げましたが、専門家の解説を聞いて驚いたのは、熊の捕獲や駆除には極めて高度な技術と経験が求められることです。

一般の人は、「ハンターが足りないなら、拳銃を所持できる警官や銃器に慣れた自衛官が撃てばいいじゃないか」と考えますが、装備があればすぐに対処できるような簡単な話ではなく、熊の習性や山林の状況を熟知した人間でなければ、仕留めるのは困難とのことでした。現在は高齢化により、猟友会で活動するハンターは減少しています。自治体や警察が連携し、限られた専門人材の力をどのように生かすかが、熊対策のカギを握っているのです。

今から50年近く前、まさにこのテーマを先取りしたかのような作品が出版されました。そのタイトルは『羆嵐くまあらし』。「ヒグマの嵐」という字面からして、強烈なインパクトがあります。

本作は大正4年に北海道で起こった「日本獣害史上最大の惨劇」とされる三毛別さんけべつ羆ひぐま事件をモデルに、作家の吉村よしむら昭あきらが書き上げたドキュメンタリー小説です。

小さな開拓村が巨大なヒグマに襲われ、わずか2日間で6人の男女が殺害されるという凄惨な事件でした。

この壮絶な現場で指揮を執ったのが、三毛別の区長です。最初の被害を受け、区長は村人たちを連れてヒグマを追いますが、その間にも住人が次々と殺されます。警察に要請して救援隊を送ってもらったものの、隊員の中にもヒグマと対峙した経験がある者はおらず、村人たちは「警察も当てにならない」と危機感を募らせます。

この非常事態に区長が頼ったのが、熊撃ちを専門とする銀四郎という男でした。狩猟の腕は超一流ながら、酒癖が悪く粗暴な人物で、たびたび警察沙汰を起こすような厄介者です。妻に逃げられ、子どもにも去られ、村人たちには敬遠される孤独な一匹狼で、最近は金に困って銃を質に入れ、毎日酒を飲んで暮らしている有り様でした。

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それでも区長は「あいつを連れてくる必要がある」と決断し、銀四郎の銃を質から出す金も自分で用意して、「どんな悪態をつかれても連れてこい」と村の男たちに命じます。しかし救援隊を率いる分署長は猛反発し、銀四郎を「留置場に三回ぶちこんだ札つきの男だ」とののしり、「銀四郎などの手を借りることはない。警察を愚弄ぐろうするのか」と怒りをあらわにします。それでも区長は分署長に頭を下げ、銀四郎をヒグマの討伐隊に迎え入れました。

「素行の悪い銀四郎ではあっても、羆ひぐま撃ち専門の猟師であるかれに頼る以外に方法はない」

(構成=塚田有香 撮影=川しまゆうこ イラストレーション=米山夏子)

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