人間の脳というのは不思議なもので、思い込んでいることが実際と真逆ということがよくある。
野球の大リーグ中継などを見ていると、試合中にガムを噛んでいる様子が映ることがある。保守的な考え方をする人だと、「真剣勝負の際に不真面目だ」「全力を尽くしていない」と思うかもしれない。
しかし、実際には真逆である。ガムを噛むことには、「集中力」をアップさせたり、「癒やしやリラックス」を得る効果がある。緊張を解くことで、プレッシャーのかかる場面でも、最高のパフォーマンスをすることができる。
なぜ、咀嚼にはリラックス効果があるのか? その理由は、私たち人間の祖先の生活を振り返ってみればわかる。文明が発達する以前は、狩猟や採集をして暮らす中、緊張が続く時間も長かった。食べ物が見つからないかもしれないし、いつ肉食獣が襲ってくるかもわからなかった。
食べ物を口にできたのは、狩猟や採集が成功して、安全を確保し、ゆったりと味わう余裕ができたときだった。すなわち、咀嚼をすることは、「今はリラックスしていい」というシグナルになったのである。
人間の脳が、実際の行動から心理的な影響を受けることを、一般に「身体性」の効果と呼ぶ。そこには、フィードバックのループがある。リラックスするからこそ咀嚼をするという行動に出ることももちろんあるが、逆に、咀嚼をするからリラックスできるという効果もあるのだ。
楽しいから笑顔になるということもあるけれども、たとえ作り笑顔でも口角を上げれば楽観的な気持ちになるという実験結果もある。ここにも、身体性が表れている。人間の脳は、どのような行動をとるかによって、心理が影響を受けるようにできているのである。
大リーグの試合中のように、一流のアスリートが、ガムを噛むことでリラックスするというのは一つの智慧だと言える。決して、サボっているわけではなく、そのようにして最高のパフォーマンスを引き出しているのだ。
もちろん、咀嚼する以外にもリラックスする方法はあるし、文化的な背景や、個人の志向もあるから、常にガムを噛むことが最適なやり方であるとは限らない。大切なのは緊張をほぐしてプレーに集中することであり、そのための方法論の一つとして、ガムを噛むということがあるのだ。
ところで、リラックスして集中することで最高のパフォーマンスができるということは、スポーツに限らず、勉強や仕事でも同じである。「今、ここ」に集中する「フロー」の状態になることで、自分の潜在能力を最大限に発揮できる。
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