AI時代は人間にとって「怖いもの」ではない
【田中】それならハードルが下がりますし、誰の仕事にもチャンスがあります。
【山下】そうです。「自分の仕事を1時間から20分に短縮した」というのも立派な「その手があったか」です。そう定義を変えて、小さな工夫でも褒めるようにすると、社員の意識が変わります。「自分にもできるかもしれない」と思えるようになる。
【田中】イスラエルを訪問した際、現地のユダヤ人たちが異口同音に言っていた言葉を思い出しました。「人は誰でも、何かを生み出すために生まれてきた」というんです。起業家のような大きなビジョンでなくてもいい。絵を描くことかもしれないし、新しいルールを作ることかもしれない。
【山下】それは、すばらしい考え方ですね。
【田中】人によって生み出すものは違いますが、必ず何か役割がある。「創造的な仕事」というと大仰に聞こえますが、自分なりの「その手があったか」を見つけることだと考えれば、AI時代は人間にとって決して怖いものではありません。
【山下】そうした小さなイノベーションに気づくためには、心と時間の「余白」が必要です。忙殺されていると「その手があったか」なんて思いつきませんから。だからこそ、AIやデジタルを使って効率化し、空いた時間で自分の仕事を見つめ直す。それが私の考える「働きがい改革」の本質なんです。
無人ダンプカーに「運転席」をつける若手
【田中】AI任せの仕事が増えると、人間の能力が落ちるという懸念もあります。
【山下】依存しすぎると能力が劣化してもおかしくありません。一例として、ある会社で若手社員たちに「無人ダンプカー」を設計させた話があります。現在は経験が浅くても、AIがデータベースから最適な部品の組み合わせを提案してくれるので簡単に設計できる。完成した設計図を見ると、運転席やハンドルがついている。無人ダンプに運転席は必要ないですよね(笑)。「運転席は必要か」という根源的な問いが浮かばなかったんでしょう。設計思想にかかわる問題です。
【田中】目的を見失ったり、思考停止に陥ったりするおそれはありますね。
【山下】人間の精度を落とさないために、あえてAIを使わないプロジェクトも走らせることも必要かもしれません。人間とAIは両輪です。どちらか一方に依存する経営は長続きしないでしょう。社員とAIは同じ速さで成長しないと本当の仲間にはなれないですよ。

