冒頭章:トランプ2.0は「世界地図」を本気で塗り替え始めた
ベネズエラへの電撃的軍事行動。
同盟国デンマークの主権を顧みない、グリーンランド獲得構想。
この二つを「トランプ流の強硬姿勢」や「交渉のための脅し」として読み流すのは危険である。なぜなら、トランプ2.0は戦後80年かけて米国自身が築いた「ルールに基づく国際秩序」そのものを、意識的に無効化し始めているからだ。
本質は、トランプ2.0が“突飛な外交”をしていることではない。むしろ、彼が世界をどういう時代の眼鏡で見ているかである。トランプ2.0を読み解く鍵は、21世紀の安全保障・資源・地政学の現実に、19世紀の帝国主義時代の米国大統領の思考が重ね合わされているという一点にある。この「時代をまたいだ重ね合わせ」が、ベネズエラやグリーンランドを「政策の一部」ではなく「歴史の反転」として成立させてしまっている。
トランプ氏が参照しているのは、戦後秩序を構築した大統領ではない。彼が尊敬を公言してきたのは、力で勢力圏を押さえ、国家の拡張を正統化した19世紀の大統領たちである。具体的に言えば、法や制度よりも結果と力を優先し、既成事実で勢力圏を拡張したアンドリュー・ジャクソンと、高関税と軍事力を組み合わせて資源・拠点・通商路を押さえ、国家の繁栄を実現したウィリアム・マッキンリーである。
しかし、ここからが決定的に重要だ。トランプ2.0は、19世紀型の帝国主義的思考を参照しながら、21世紀という全く異なる条件の世界でそれを実行しようとしている。情報は瞬時に拡散し、ナショナリズムは外圧で増幅され、戦争は非対称化し、同盟は取引化する。もはや「取れば終わり」の時代ではない。
それでもトランプ2.0がこの道を選ぶのは、国家運営のOS(オペレーティングシステム、基本ソフト)において、内向きの求心力(ポピュリズム)と、外向きの遠心力(帝国拡張)という、互いに矛盾する二つのプログラムを同時に走らせているからである。
では、この構造は、どこへ向かうのか。次章では、トランプが参照する2人の大統領を掘り下げ、なぜこのOSが「強さ」を演出しながら、不可避の自壊を内包するのかを解剖する。

