なぜ中国の習近平国家主席は台湾統一に向けた強硬姿勢を崩さないのか。日本経済新聞編集委員兼論説委員の田中孝幸さんは「実際に台湾侵攻に踏み切った場合、中国の経済的軍事的損失は甚大になると見込まれている。それでも強硬な発言を続ける背景には事情がある」という――。

※本稿は、田中孝幸『世界を解き明かす地政学』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋、加筆・再編集したものです。

2026年2月14日、春節団拝会で演説する習近平中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席。中国共産党中央委員会と国務院は14日、北京の人民大会堂で2026年の春節団拝会(旧正月の合同祝賀会)を開いた。
写真提供=新華社/共同通信イメージズ
2026年2月14日、春節団拝会で演説する習近平中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席。中国共産党中央委員会と国務院は14日、北京の人民大会堂で2026年の春節団拝会(旧正月の合同祝賀会)を開いた。

強硬姿勢を崩せない、大陸国家特有の事情

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は最近、台湾統一に向けた強硬姿勢をみせることが増えています。新年の演説では台湾統一は「歴史の大勢であり、阻止できない」と強調しました。昨年12月末には中国軍は台湾周辺で実弾演習を実施し、統一のために武力行使を辞さない姿勢を印象づけました。11月の高市早苗首相の台湾有事を巡る発言にも強く反発し、日本への圧力を強めています。

実際に台湾侵攻に踏み切った場合、成功するかは不透明なうえ、中国の経済・軍事的な損害は甚大になると見込まれています。それでも強硬な言動を続ける背景には、ランドパワーと呼ばれる大陸国家特有の地政学的事情があります。

「理にかなっていない」ロシアのウクライナ侵攻

地政学とは、主に地理に重点を置いて国際関係を考えることを指します。

地理は簡単に変わりません。たとえば日本も約1千万年前にユーラシア大陸から切り離されて以降、列島であり続けています。大陸国家としての中国の位置もそのころから変わっていません。

島国としての地理や気候は、そこに住む人々の行動パターンや文化を規定してきました。こうした、変わらないものをしっかり把握するのが、地政学的な思考の柱です。

一方で、地政学という言葉には「政」という文字も入っています。

これは地理とは対照的に、うつろいやすい政治的な問題を意味しています。それはリーダーたちの個人的事情に依存し、経済合理性や外部者にとっての理にかなったことを超えた動きをする世界とも言い換えられます。

たとえば、ロシアのウクライナ侵略は、近年に起こった最大の地政学的リスクとして挙げられています。大半の専門家は事前に予測できませんでした。

それは、ロシアにとって欧米の経済制裁や軍事費の拡大を招くのは明白で、経済的にはまったく理にかなっていなかったためです。

このように、地政学は、経済的な問題よりも優先される国の防衛の問題や、国内政治の問題もカバーします。変わる政治、経済の問題と変わらない地理を総合的にとらえて、外交やビジネスなどの国際舞台で使えるようにした実学と位置づけられます。