独裁者はいつも保身におびえている
では、そうした手法でまず習近平氏の「政」の事情を分析したいと思います。彼は政治的にどんな立場で、どんな心理状態にあるのでしょうか。
まず、踏まえないといけないのは習氏は最近の前任者と異なり、平和裏の引退が難しい指導者であることです。
改革開放政策で現在の中国の豊かさをもたらした鄧小平は国家主席の任期を「2期10年まで」とし、68歳定年の慣例も定めました。そこには建国の父、毛沢東への権力の集中が文化大革命など多くの誤った政策をもたらした反省がありました。
実際、前任の胡錦濤(フー・ジンタオ)氏、その前の江沢民(ジアン・ズォーミン)氏もそれぞれ10年で後任に権力を譲り渡しています。トップであっても、共産党の最高指導部の政治局常務委員会の一員として集団指導に当たる体制が保たれていました。
ただ、習氏は12年に最高指導者の座に就くと、「反腐敗」を旗印とした政敵の徹底的な排除を始めました。18年には国家主席の任期制限を撤廃し、自身への権力の集中を加速。23年に3期目に入りました。
これは、死ぬまで最高権力を手放さない典型的な独裁者の道に踏み出したといえます。独裁者はそれになる過程で多くの敵をつくっています。権力を奪われることは死を意味し、いつも保身におびえているのが常です。普通選挙でトップを選ばず、権力の正統性を国民に納得させるのが難しい非民主的な中国のような政体ではなおさらです。
台湾統一は「保身」のためにも魅力的
歴史をひもとくと民主的な手段によらずとも、国民の圧倒的な支持を得て終身独裁を可能にするすべはあります。それは主に①毛沢東のように建国にあたったオーナー世代の強いカリスマ②国を経済的に豊かにした実績③宗教的な権威④ナポレオンのような領土拡張など軍事的な功績、の4つです。
ただ、習氏の場合は①や③は得られないのは明白です。②の経済も足元で停滞し、過去のような高成長は望むべくもありません。江沢民氏や胡錦濤氏には建国世代で②をもたらした鄧小平に直接選ばれたという強みがありましたが、習氏にはそれもありません。
実は権力の正統性という面では、習氏は過去のトップより弱い立場にあるといえます。それだけに、④の軍事的な功績をあげる手段は自身の保身のためにも魅力的な選択肢に映るのです。
台湾統一は毛沢東ですら果たせなかった中国共産党の悲願です。実現させれば国内での権威は名実ともに圧倒的となり、保身の問題も解決します。習氏の最近の台湾問題での不合理なほどの強硬姿勢は、こうした独裁者特有の事情がわからないと理解できません。

