データを積み上げても外す人がいる。その一方で、「なんとなく」の一言で数兆円規模のビジネスを当てる人がいる。その差を生む条件は、頭のよさではなかった。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんが、年収3億円の人の「直感の育て方」を解説する――。
窓から海を見つめる男性の後ろ姿
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5分で20億円を賭けた男

2000年、孫正義氏は約20社の中国の新興IT企業経営者と次々に面談していた。持ち時間は1社わずか10分。その中に、売上がほぼゼロの小さなEコマース企業の創業者がいた。ジャック・マー。のちのアリババである。

マーは事業計画の数字を並べなかった。自分の哲学を語り、世界をどう変えるかを語った。孫氏はわずか5分で投資を即断する。金額は約20億円。マーが「1億か2億円でいい」と控えめに言うのを押し切ってのことだった。事業計画書すら見ていない。後に孫氏はこう振り返っている。「動物的に“匂い”を感じた」「目つきで決めた」(NEWSポストセブン、2014年6月13日)。

周囲の反応は冷ややかだった。「中国のベンチャーに20億円」。当時の常識からすれば、正気を疑われても仕方のない判断だった。しかしその20億円は、のちに数兆円のリターンとなって結実する。この投資判断は、たんなる幸運だったのか。それとも、凡人には見えない何かが孫氏には見えていたのか。

答えを先に言おう。孫氏の「勘」と、私たちの「勘」は、根本的に別のものである。その違いを生む条件は、突き詰めればたった一つ。「経験の質」だ。

数字をこねくり回す人と、「なんとなく」で的中させる人

マーケティングの世界で生きていると、ときどき背筋が凍るような光景に出くわす。何週間もかけてビッグデータを分析し、回帰分析やクラスター分析を駆使して「これが正解です」とプレゼンしているのに、クライアントの社長がふと顔を上げて一言。

「うーん、データはわかったけど、なんか違う気がするんだよね」。

恐ろしいことに、その「なんか違う」が、かなりの確率で正しい。

私たちマーケ屋は「根拠は? エビデンスは?」と慌てふためく。一方で「勘派」の経営者たちは、「長年の経験の結晶ですよ」と、ひどく抽象的なことを言うばかりだ。

しかし最近、私はある仮説にたどり着いた。富裕層、とりわけ自らの判断で資産を築いた成功者たちには、凡人とは異なる「勘の使い方」があるのではないか。そしてその差は、持って生まれた才能ではなく、脳に蓄積された経験の質と量によって説明できるのではないか、と。