第1章:トランプが参照する2人の大統領
アンドリュー・ジャクソンとウィリアム・マッキンリーは「何をした人物」だったのか
トランプ2.0を読み解く上で欠かせないのが、彼が繰り返し尊敬を公言してきた2人の米国大統領である。重要なのは、彼らが「立派な制度設計者」でも「戦後秩序の建築家」でもない点だ。トランプが参照しているのは、力と結果によって国家の輪郭を変えた人物である。まずは善悪判断をいったん脇に置き、2人がそれぞれの時代に「具体的に何をした大統領だったのか」を押さえる。そのうえで、彼らが動かしていた国家運営の論理=OSを抽出し、最後にトランプ2.0の矛盾へ接続する。
1.アンドリュー・ジャクソン
国内を「力でまとめ直した」大統領――民意直結・結果主義の統治
アンドリュー・ジャクソン(第7代大統領、1829~1837年)は、米国史上でも特に強烈な形で「民衆の代表」を名乗った大統領である。白人男性普通選挙の拡大という社会変化を追い風に、「自分は民意の体現者であり、制度がそれを妨げるなら制度のほうが間違っている」という世界観を持った。
象徴的なのが、先住民の権利を認めた最高裁判断を事実上無視し、インディアン強制移住(トレイル・オブ・ティアーズ)を断行したことだ。ここに見えるのは、制度の正当性よりも、国家が目指す結果を優先する統治観である。現代の価値観から見て許されない側面を含むが、ここで重要なのは倫理評価ではなく、「制度より結果」という統治ロジックそのものだ。
もう一つの軸が「反金融・反エリート」だ。ジャクソンは第二合衆国銀行を解体し、金融特権を「腐敗」と断じた。これは単なる金融政策ではない。国民の生活不安(賃金、物価、雇用)の原因を「見えない支配者」に投影し、「国を取り戻す」という物語で求心力を作る政治技術である。彼の政治は、国内の怒りや不満を束ね、内向きの結束を力で作り直すことに成功した。
この点が、トランプがジャクソンに自己同一化しやすい理由でもある。ジャクソンは外交や世界秩序の設計者ではなかった。彼の関心は徹底して国内にあり、「我々の税金と生活を守る」ことが正統性の中心だった。だからこそジャクソンの統治は、内向きの求心力を最大化する方向へ自動的に収束する。

