大混乱している「日本国債をめぐる議論」
序章:なぜ今、日本国債がこれほど「わからなくなった」のか
今回の解散総選挙を受け、与野党のほぼすべてが「消費税減税」を掲げる異例の構図となった。物価高で苦しむ家計に配慮する姿勢を競い合う中で、食品の消費税ゼロや時限的な減税案が次々と打ち出されている。一方で、金融市場では長期金利がじわじわと上昇し、円安にいったん進行。その後、日米金融当局による介入への懸念から円高に振れるなど大きく動いている。これらが同時に起きていることで、日本国債をめぐる議論は、かつてないほど混乱している。
新聞やテレビ、専門家の解説を見ても、意見は割れている。「減税は景気を支えるから問題ない」という声がある一方で、「財政規律が緩み、国債の信認が揺らぐ」という警告も強い。さらに、ある経済学者は「財務省と日銀が連携して金利を抑え込めば、市場の歪みは為替に転嫁され、結局は中長期の財政再建しか道はない」と論じる。こうした主張は一見もっともらしいが、どこまでが事実で、どこからが前提の置き方による解釈なのか、一般の読者には判別が難しい。
結果として、多くの人がこう感じているのではないだろうか。
「消費税減税は本当に危険なのか」
「長期金利が上がっているのは、減税や財政拡張のせいなのか」
「そもそも、日本国債は今、安全なのか、それとも危ないのか」
何を基準に判断すればよいのかがわからない。この「わからなさ」こそが、現在の日本の財政議論が抱える最大の問題である。
「減税合戦」が進めば、国債は格下げされる?
とりわけ不安を煽る言葉が「国債格下げ」だ。減税合戦が進めば、日本国債は格下げされるのではないか、という懸念が繰り返し語られる。しかし、国債が格下げされるとは具体的にどういう意味なのか、誰が何を根拠に判断し、どの段階でそれが決まるのか、さらに格下げが金利や円相場、私たちの生活にどのような順序で影響してくるのかを、筋道立てて説明できる人はほとんどいない。そのため議論は、「借金が多いか少ないか」「緊縮か積極か」「減税は是か非か」といった対立に分解され、本質が見えなくなってしまう。
ここで最初に、はっきりさせておきたい事実がある。日本国債を評価する金融市場や格付機関が問題視しているのは、消費税減税という政策の是非そのものではない。彼らが見ているのは、もっと根本的な点、すなわち「この国は、将来にわたって国債の利息と元本を返し続けられるのか」という一点である。借金の絶対額が多いかどうかは、直接の判断材料ではない。

