※本稿は、佐谷秀行『がんが気になったら読む本 生きぬくための最新医学』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。
がん治療は“最初の医者”で決まる
がんの治療では、最初の一手がきわめて重要です。
実は、医師の立場からは非常に口にしにくいことではありますが、がんというのは、かかる医者によってある程度その先の運命が決まってしまう病気である、という現実を否定することはできません。
とはいえ、ころころと頻繁に担当の医師を替えると、新しい医師はそのたびに、患者さんの情報をゼロから収集しなければならないことになります。患者のことをよくわかっていないせいで、避けるべき選択をしてしまう可能性も高まります。
ならば、“良い医師”とはどういう医師なのでしょうか。これはなかなか難しい問題です。ひとくちに“良い”といっても、評価軸はいくらでも考えられます。
そこで、まずご紹介したい本があります。『大学教授がガンになってわかったこと』(幻冬舎新書)という本ですが、まず大腸がんになり、それから膵臓がんになられたというご自身の体験を書かれたエッセイで、役立つ情報がたくさん詰まっています。その上とてもコミカルで面白く読めてしまう貴重な一冊です。自身やご家族ががんになられた読者にとっては、とても参考になります。
担当医を替えた大学教授の葛藤
著者は山口仲美先生という、古典語から現代語までの日本語の歴史をご専門にされている大学教授で、2021年に文化功労者に選ばれています。
がん患者という立場に置かれたご自身の状態や心境の推移から、医師をはじめとする医療従事者たちの姿までが、生き生きと赤裸々に描かれているわけですが、いちばん印象に残るのは、山口先生の闘う姿勢です。
治療の中で最初からものすごく迷われ、葛藤され、医師を含めていろいろなものを相手に闘います。ただし、一度ご自身でこうと判断し、行動に移したことに関しては、決して後悔されません。これは、がんと闘う上で非常に重要なポイントです。
山口先生は何度か大きな決断をされ、担当の医師を替えます。じっくりと考えた末の判断ですが、その姿には、“バッサリ斬る”という表現がしっくりとくるすがすがしさがあります。
もちろん切り捨てるばかりではなく、闘うパートナーとしての医師との信頼関係を厚くする努力もされるのです。
たとえば、膵臓がんの治療では手術を受けるという選択をし、「名人芸に達しているといってもいいような卓越した」技術を持つ医師が執刀医となります。実際、術後には傷がほとんど痛まず、膵臓の断端部からの出血もきわめて少なく、しかも合併症もなかったため、13日後には退院することができました。

