過去の安楽死に絡んだ事件とは明らかに違う

次に朝日新聞の社説(7月28日付)を読んでみよう。「嘱託殺人 医の倫理に背く行い」との見出しを付け、こう指摘する。

「91年の東海大病院事件や98年の川崎協同病院事件など、終末期の患者の命を終わらせた医師の刑事責任が問われた事例は過去にある。しかし、どれも通常の医療の延長線上にあった行為であり、今回の事件とは明らかに様相を異にする」

やはり、今回の嘱託殺人事件は過去の安楽死に絡んだ事件とは明らかに違う。それだけに逮捕された2人の医師の行為は異常なのである。

朝日社説は書く。

「改めて言うまでもなく、患者の生命・健康に深く関わる医師には、高い倫理と人権感覚が求められる。その前提のうえに、危険な薬物を取り扱うことが許されている。容疑者2人にその自覚はどこまであったか」

沙鴎一歩も前述したが、医師には高度なモラルが求められる。問題の2人にはそうしたモラルのかけらもないようだ。

社説にするまで5日もたっているようでは遅すぎる

さらに朝日社説は書く。

「ALSは全身の筋肉が徐々に衰えていく病気で、根本的な治療法はない。症状が進めば意思疎通の手段が狭まり、社会とつながりを持つのがさらに難しくなる。旅行が好きで活動的だったという女性が向き合った苦悩は、察するにあまりある」

ALSほど過酷な疾病はない。それゆえ、続いて朝日社説は「患者を取り巻く状況や不安を理解し、日々の生活はもちろん精神面もしっかりサポートする態勢をつくる必要がある」と訴えるのだろう。

朝日社説は「患者本人や支援する人たちからは、事件を機に『死ぬ権利』に注目が集まり、『生きる権利』がないがしろにされるのではないかとの声が出ている」と指摘し、最後にこう主張する。

「生命の尊厳を共有し、そんな懸念を払拭することが、ALSに限らず、さまざまな障害のある人と共に生きる社会を築くことに通じる」

「共に生きる社会を築く」とは実に朝日社説らしい。そこが少々、へそ曲がりの沙鴎一歩には鼻につく。ここまで書くならもっと早く社説として今回の嘱託殺人事件を扱うべきだ。事件の発覚が7月23日。それから社説にするまで5日もたっているようでは遅すぎる。

読売、毎日、産経などほかの新聞も同じだ。なぜ、もっと早く社説に書かないのか。4連休中でも新聞は毎日発行されている。「新聞離れ」を食い止めるためには、社説のスピード感を見直す必要がある。今回の各紙の対応は残念だった。

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