「安易に死期を早めただけなら、医療を逸脱する行為」

7月28日付の読売新聞の社説は「ALS嘱託殺人 医療からの逸脱は許されない」との見出しを掲げ、冒頭からこう主張する。

「患者がより良く生きることを支えるのが医師本来の務めではないか。安易に死期を早めただけなら、医療を逸脱する行為であり、許されない」

その通りである。2人の医師の行為は、医療ではなく、許容の余地などない。

読売社説はさらに主張する。

「医師は主治医ではなく、治療も担当していなかった。SNS上のやり取りだけで『死にたい』と漏らす女性の心情を本当に理解できていたのか。府警には事件の経緯を詳細に解明してもらいたい」

被害女性は精神的にも疲れ果てていたのだろう。逮捕された2人の医師はそれをどこまで理解しようとしていたのか。考え抜いた末、治療の延長として薬物を投与したというならまだしも、SNS上のやり取りだけでは、医師として女性の心の中まで理解するのは不可能だ。

読売社説は書く。

「医師側には女性から130万円が振り込まれていたという。薬物投与のリスクを負う対価だったとしたら、医師側は違法性を承知のうえで短絡的な行為に及んだことになろう。疑問は拭えない」

今後、2人の医師は起訴されて裁判を受けることになるはずだが、130万円の受領が嘱託殺人罪を立証するカギになるはずだ。

東海大病院事件判決の「許容4要件」に当たらない

読売社説は「薬物投与などで患者の死期を早める行為は『積極的安楽死』と呼ばれ、日本では認められていない。ただ、例外的に許容されるケースとして、東海大病院の医師を殺人罪で有罪とした横浜地裁判決が一定の要件を示している」と解説し、その要件をこう挙げる。

「『耐え難い肉体的苦痛がある』『死が避けられず死期が迫っている』『肉体的苦痛を除去・緩和する他の方法がない』『患者の意思が明らか』の4点である」

そのうえで読売社説は「府警は、女性に死期が迫っていないことなどから、要件を満たしていないと判断したのだろう」と指摘し、さらに「オランダやベルギーなどは安楽死を合法化しているが、4要件と同様の条件を設けている。死の選択に熟慮が必要なのは当然だ」と主張する。沙鴎一歩も同感である。

読売社説はALSの過酷さを指摘した後、最後にこう訴える。

「女性は生前、『指一本動かせない自分がみじめでたまらない』と書き込んでいた。患者を孤立させない環境整備などは必要だが、今回の医師たちのようなやり方では問題の解決にはつながるまい」

難病患者には周囲の温かい支えが欠かせない。