今回の事件は「安楽死」ではなく殺人行為そのもの
1995(平成7)年3月、横浜地裁が東海大安楽死事件の判決で安楽死の3タイプ(積極的安楽死、間接的安楽死、消極的安楽死)を示している。東海大安楽死事件とは東海大病院で末期がんの患者に医師が塩化カリウムを注射して死亡させた事件で、安楽死の問題が初めて司法の場で大きく問われた。この事件の判決後、患者を死亡させた医師の殺人罪(執行猶予付き)が確定している。
判決などによると、積極的安楽死は苦痛から患者を解放するために意図的かつ積極的に死を招く医療的措置を指す。毒物の投与によって死期を早める行為である。
これに対し、消極的安楽死は患者の苦しみを長引かせないために、お腹に穴を開けて栄養剤を送る胃ろうや血液から老廃物を除く人工透析、自発呼吸ができない患者に施す人工呼吸などの延命治療を中止して死期を早めることだ。間接的安楽死については、苦痛の除去を目的とする適正な治療行為ではあるものの、生命の短縮が生じるとしていると判決は指摘している。
2人の医師が逮捕された嘱託殺人事件は安楽死などではなく、殺人行為そのものだと思う。
「安楽死法」があるオランダでも安楽死はまれ
現在、積極的安楽死を安楽死とみなし、消極的安楽死と間接的安楽死を尊厳死とするのが一般的な考え方で、日本尊厳死協会は尊厳死と安楽死とを明白に区別し、安楽死に反対している。安楽死と尊厳死の違いも正しく理解しておきたい。
安楽死といえばオランダだ。オランダでは2001年に世界で初めて安楽死法が成立し、翌年から施行されている。医師に薬物を注射してもらうなどして合法的に命を断つことができる。一方で、オランダでは患者の苦痛を取り除くような消極的安楽死(尊厳死)は通常の医療行為とされている。
こうした考え方は、オランダ独自の家庭医制度の上に成り立っている。国民全員が健康状態を日常的に診てもらえる家庭医を持っている。その家庭医は患者がどう自分らしく生きるのか、どうやって死に臨もうとしているのかを把握している。家庭医が了承しない限り、安楽死はできない。このため、オランダでも安楽死はまれで、オランダ全体の死亡者数に占める安楽死の割合は数%に過ぎない。