口座には林さん側から130万円の振り込みがあった
51歳の女性に頼まれてこの女性を殺害したとして、京都府警が医師2人を嘱託殺人容疑で逮捕した。女性は全身の筋肉が動かなくなる難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者だった。「惨めだ。こんな姿で生きたくない」と語っていた。この嘱託殺人事件をきっかけに安楽死の問題について考えてみたい。
事件の概要から説明しておこう。医師2人は宮城県名取市でクリニックを開業する元厚生労働省技官の大久保愉一容疑者(42)と東京都港区の山本直樹容疑者(43)で、7月23日に逮捕された。
2人は、昨年11月30日午後5時半ごろ、京都市中京区のマンションを訪れ、そこに住む林優里さんに薬物を投与して殺した疑いがある。山本容疑者名義の口座には林さん側から130万円の振り込みがあった。林さんの病状は比較的安定し、在宅介護を受けていた。死因は薬物中毒だった。
「父親に負担をかけたくない」と実家近くで一人暮らし
ALSは根本的な治療法がない「死に至る病」である。体を動かすための神経が衰え、全身の筋肉が動かせなくなる。呼吸も難しくなり、人工呼吸器を使わなければ生存期間は2~5年と短い。厚労省によると、国内のALS患者は、2018年度末時点で9805人という。
林さんは同志社大を卒業後、建築を学ぶためにアメリカに留学し、帰国後に建築設計事務所で働いていた。しかし、10年ほど前にALSを発症。「父親に負担をかけたくない」と実家ではなく、実家近くのマンションに1人で住み、複数のヘルパーが付添う24時間体制で介護を受けながら生活していた。
林さんは眼球の動きで操作するパソコンを使用し、ツイッターやブログで「なぜ、こんなにしんどい思いをしてまで生きていないといけないのか」との書き込みをしたこともあった。