※本稿は、中島美鈴『もしかして、私、大人のADHD?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
見過ごされる女性のADHD
ADHD(注意欠陥/多動性障害)の子どもの有病率は約5%で成人の倍以上ですが、男女比では男性が圧倒的に多い数字となっています。
これは、女の子に比べ、男の子のADHDは、多動性や衝動性からくる粗暴な態度に親が問題意識を持ち、病院で診察を受けることが多いからではないかと分析されています。また、診断基準もこうした背景から男性を基準に作成されたものだからだという指摘もあります(ケスラーら『The prevalence and correlates of adult ADHD in the United States:Results from the national comorbidity survey replication.』、2006年)。
近年の研究で、大人になってからも50%以上はADHDの症状が残っていることがわかり、成人でADHDを疑って受診する人は増えていますが、第3章で詳しく解説する精神疾患を診断する際に使用されているDSM‐5(『アメリカ精神医学会による精神疾患の診断と統計のマニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)』最新版2013年)によれば、成人での男女比でも男性の比率が0.4ポイント減になった程度で、やはり男性の方が多い数字になっています。その他の有病率の性差の研究では、成人の男女比が1:1という報告もありますが、男性の割合を女性が上回る結果は見られていません。
「変わった子」で済まされてきた
しかし、2010年以降に行われた世界中の成人ADHDの人を対象にした治療研究では、参加者の7~8割が女性でした。成人における有病率の性差は、まだ一致した調査結果が出ていませんが、成人女性には、ADHDであったとしても未受診の状態の人がかなり多く潜在しているのではないかと推測されます。
幼年期の女の子のADHDは、絶えず目の前の集中すべきことではなく、ほかのことを空想しているとか、おしゃべりといった別の表現型をとることも多く、診断基準でも拾い上げにくいといった指摘もあります。そのため、「ちょっと変わった子」で済まされてしまい、見過ごされてきただけだとすると、この男女比もこれまでとは異なる数値が出てくるようになるのではないかと考えられます。